『マサキくんっ!今日部活ないんだよね?』 「あれ、よく知ってるね?誰かに聞いたの?」 『うん!葵ちゃんに!』 「じゃあ一緒に帰ろうか?」 その問答に名前は笑顔で答え、マサキも笑顔で返す。 サッカー部の練習がないことを元より知っていた名前はマサキに催促をするように手を差し出した。 その手を取ってマサキが先導的に手を引けばまた頬が緩む。 互いに感じる互いの体温。 マサキの手は暖かく、名前の手は冷たい。 混じり合ってどう感じるかも形容し難くなった温度を二人で感じていた。 校門を抜け、誰の視線も感じなくなった時。 二人の手はパッと離れた。 『あーあ。マサキの手って暑いよねー』 「そういう名前の手は冷たいだろ。悪趣味」 『へぇ…そんなこと言うんだ?そっちも楽しんでる癖に』 「まぁね。否定はしないけどさ」 マサキがお手上げ、とでも言う様に両手を上げた。 一方名前は先程教室で見せた"彼女"が"彼氏"に向ける笑みではなく意地の悪い笑みをニヤリと浮かべる。 『いいよねぇあの"リア充爆発しろ"って目線。嫉みに満ちた表情。まさに負け犬の遠吠え!』 紅潮した頬を冷ますかのように己の頬を両手で包み込んだ。 その瞳には一種の狂気が見て取れる。 だがマサキは至って冷静そうに名前を、そして自分達に向けられた視線を受けて楽しんでいる。 そう。名前とマサキは付き合ってなどいない。 ただ、世間から好奇な、羨ましげな視線で見られることを楽しんでいるだけ。 『あの何とも言えない優越感!だからやめられないのよね〜』 「お〜怖っ」 『なんとでも』 名前は笑う。心から楽しそうに。 随分歪んだ女だ、そんな名前にマサキは笑う。 誰もいない道の真ん中で二人は笑い続けた。 『マサキにはまだまだ付き合ってもらうからね』 冷たい手で、名前はマサキの手を取る。 熱くなった頬を冷ます為に当てた冷たい手の平は先程より暖かくなっていた。 マサキの手と名前の手。 体温が混じり合って一つの温度へ溶け込んでいく。 同時に二つの渇いた笑いが空に溶けていく。 「で、いつまでこんなこと続けるつもり?」 『何言ってるの?ずっとずーっと続くの!私が満足するまでね!』 歪んだ愛の楽しみ方。 名前の見つけた楽しみにマサキは嘲笑を浮かべ繋がった手に愚かさすら感じた。 純粋ごっこに飽きただけだよ (貴方は付き合ってくれるでしょう?) (お前に付き合えるのは俺ぐらいだからな) _ |