好きな子は虐めたいなんて聞いたことはあるけど度が過ぎた好意って腹立たしいことこの上ない。


『痛い痛い!白竜痛い!』
「……ふん」


髪を無意味に引っ張られたりする。
というかこれはただ痛いだけだし。


『だからなにってば!返して!』

「お前がチビなのが悪い」

『なにそれ!』


髪ゴムを引ったくられたと思ったらその手が私の頭の上に。
生憎身長の低い私はそれに届かない。

…白竜と私は付き合ってる。

周りから公認なんだけどこの前チームメイトに大丈夫なの?って言われたりした。
付き合ってるのにそれってどういうこと?

髪ゴムを奪われた事でざんばらな髪が視界に入ってイライラする。
残念ながらヘアゴムが白竜に取られた一個しかない為にどうにもならない。
ここまで毎日毎日ちょっかいと言うか悪戯をされるとホントに好きなのか疑問になってくる。

エンシャントダークのシュウくんを見習って欲しい。
シュウくんはおおらかだしこんな意地悪しないし。
こっちも悪戯でシュウくんに乗り移ってやろうかと一回考えたくらいだ。



『ちょっと白竜!ゴム返して!』



バタンと白竜の部屋のドアを乱雑に開く。


「なんだ名前。もっと静かに開けろ」
『なんだじゃないでしょゴム返して!』


悠々と椅子に座る白竜に勢いよく手を差し出した。
右手の人差し指でくるくるとゴムを弄ぶ白竜が腹立たしい。
私はそれを返せと言ってるのに。


「名前は髪を括るな」

『はぁ?』
「他の奴にそんな姿は見せないでいい。そのままにしろ」

『…髪括るなってこと?』
「そうだ。こんなもの必要ない」
『あっ!ちょ、なにするの!』

白竜の右手からごみ箱に一直線に叩き込まれた私のゴム。
慌てて取ろうと手を伸ばそうとしたら白竜にその手を捕まれる。



「代わりにこれをやる」



荒々しく手に押し付けられたのは白竜には似合わない可愛らしいヘアピンだった。


『…これ…?』
「髪は括るな。邪魔ならこれで止めろ」


どこで買ったのとかなんで括っちゃ駄目なのとか白竜にヘアピン似合わないとか言いたいことは色々あったけど珍しく白竜が必死そうに見えたから受け取っといてあげた。
…いつかシュウくんにさりげなく聞いといて貰おうかなぁなんて思案してたのはまた別の話。



人は見掛けによらず

(髪を括らせない理由?括ったらうなじが見えるだろう)
(…それだけなの?)
(あぁそうだ)
(白竜って意外に心配性だね……)

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