不器用ながらに作ったクッキー。
これまた不器用ながらにラッピングしてみた袋には私が生まれて初めて誰かのために作ったそれが入っている。


『…よしっ!』


本当はクリスマス当日に渡したかったけれどクリスマスが土日だったからやむなく断念。だから土日の間にせっせと作った。
お母さんが「手伝おうか?」と聞いてきたけれど親の手は借りなかった。
そのせいで台所が悲惨な状況になったとか気にしたら負けだ。うん。


『あ、あの、霧野くん!』


おずおずとではあるが、できるだけ大きな声で霧野くんに声をかけた。
私の初めて(作ったクッキー)を背中に隠しながら目的の人物―霧野くんに歩を進めていけば心拍数が上がっていく。
霧野くん隣の席には神童くんも座っていたけれどこの際気にしない。と言うか気にしてられない。


『あのね、昨日クリスマスだったでしょ?』
「あぁ」
『それでね、あの……!』


あぁダメダメ!恥ずかしい…!
でも言わなきゃ台所ぐっちゃぐちゃにして作ったクッキーが無駄になっちゃう…!


「そうだ!昨日これ貰ったんだけどいるか?」
『…へ』

「クッキー。美味いぞ?」


なかなか話を切り出せなかった私を思って差し出されたであろう小さな袋。
その中にあったのはまさかの可愛く作られたクッキー。
え?まさか?それを私に勧める?
霧野くんにクッキーを焼いてきた私に?
いやそれがたとえ善意だったとしてもかなり突き刺さるものがあるんだけれども…。


『いいの?ありがとう』


って私貰ってるし……!
星形に綺麗に整えられたクッキーをパクリ。


「な?美味しいだろ」
『……美味しい…』

「これを部員全員に作ってくる辺り三国さんもスゴイよな」

『…え?これ先輩が作ったの?』


しかも男の?


「あぁ。よくこうやって俺らにくれるんだよ」





『………先輩の料理上手ーーっ!!!』





そう言ってから後の記憶が若干ない。

自作のボロボロのクッキーはあの時霧野くんに投げつけたようだ。
なんて失態。あんな失敗作晒してしまうなら何も言わずにいればよかったのに。


「……苗字?」
『っああぁぁぁああごめんね霧野くんっ!』

「それ、…クッキーか?」
『!!』
「クッキー?」


神童くんも言わなくていいのに…!
もうクッキーは霧野くんの手の内に。


「もしかして俺に?」


確信をもって言われてしまえばもう頷いてしまうしかない。
それを見た神童くんがパッと席を立ってしまった。
あああ神童くんこんなところで空気読まなくたって!

真っ赤になってしまった私の目の前には私の歪なクッキーを持ったまま私を見つめている。
無言になってしまった空間。


「…なぁ苗字」
『…!』


目を合わせるのが怖くてうつむいていた顔が上がる。



「…俺さ……期待しても、いいか?」



歪なクッキーのラッピングを解いた霧野くんが柔らかく微笑んで、私の胸はもう一度大きく高鳴るのだった。







歪なクッキーの行方

(あ、味の保証はできないんだけど…)
(大丈夫。苗字の作ったものなら)

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