昔から地味な容姿、地味な性格、地味な学力な私はその通り地味に生きてきた。

ビン底の様なメガネに頭の両側でくくられたお下げ。絵に描いた様な地味な女子生徒、それが私。
できる友人もそりゃあ平々凡々。
類は友を呼ぶってこういうことか、なんて妙に納得してしまう。


「名前!一緒に帰ろー!」
『あ、ごめん今日は日直の仕事あるから先帰ってて!』
「マジで?じゃあ今度また寄り道しよ!」
『うん!』


そんな平凡な友だちと平凡な会話を交わせば、教室を去っていく。
そういえば昨日駅前の商店街に新しいお店が開いたとかいう噂だ。
行きたかったなぁと思うけど仕事もあるししょうがない。

また今度って言ってくれたしそれに甘んじて今日はあきらめるとしようか。

あーあ、と思いながらもとりあえず日誌を書いていく。
そうしている内に少しずつ部活やらなんやらで教室の人たちは減っていった。

いつの間にか教室には私と数人のクラスメートだけ。
生憎他愛もない会話をするような仲の人達じゃないから無言で作業を続ける。
日誌を書き終わったら次は提出物のプリントを職員室まで運ばないといけない。
面倒だけど今日で日直は終わりな金曜日。
もうちょっともうちょっとと思えばなんとか頑張れる。


『ん、終わりっと…』


独り言で終了の合図を出してシャーペンを机に転がした。
思いっきり伸びをして一息。

次は隣の机に積まれたプリント運びだ。


『よいっ、しょ…』


積んだプリントの上についでに先生に出そうとする日誌を置いて一気に持ち上げる。
ちょっと重いけど職員室まではそんなに距離はないからきっと大丈夫…だと思う。
ただ、前が見にくいけど……うん。なんとかなる。

この後も平凡な私は普通に任務をこなし普通に帰路について普通に1日を終わらせるのだろう。
とはいえその平凡さに文句があるわけでもないから別にいいんだけどね。

転ばないように前を確認しながらゆっくり廊下を歩く。



「っうぉあ!?」
『へ!?』



職員室直前の曲がり角で思わぬ衝撃。

無残にも廊下にばら撒かれてしまったプリントが尻餅を付いた私に降り注いだ。
衝撃でメガネを落としてしまったらしい私の視界は一瞬で淀む。
相手は私と違って倒れていないのだろう視界の端には散らばるプリントとぶつかった相手の足だけがかろうじて見える。
見えるかなぁと思いながらも誰だろう、と思って顔を上げれば特徴的なゴーグルに褐色の肌が見えて相手が誰だかなんてすぐに分かった。


「っとわりぃ!ちょっと急いでて……」

『あ、うん大丈夫だよ』


ぶつかったお相手…浜野くんに腕を引っ張られてプリントの散らばる廊下に立ち上がる。
部活途中なのかジャージ姿だ。珍しいなぁ…。
すると慌ててプリントを拾い集めてくれる浜野くん。


『え、いいよいいよ!』
「いやぁ…俺がぶつかっちゃったし、こんくらいはね〜」

『あっ』
「お?」


私も拾おうとしたけどメガネがないから如何せん前が見えない。


「あ、これか!ホイッ!」
『!』


濱野くんが落ちているメガネに気づいてくれたのかそれを拾ってかけてくれた。
クリアになった視界に浜野くんがアップで写って思わず後ずさってしまう。
している間にプリントを集め終わった浜野くんが私の腕にプリントの束を乗せる。



「苗字さ、メガネかけてない方が可愛いぜ!」



そう言って仕上げと言う感じで日誌を束に乗せてニコリと笑う浜野くん。
じゃ!と颯爽と駆けていった浜野くんの背中を見つめて、私は唖然とする。

自分の視界に入るこのメガネを外して非凡人になろうと決心するのにそう時間は掛からなかった。





ただの平凡な

(浜野くん…あれ天然で言ってるのかな…)
(天然でも天然じゃなくてもあんなことサラっと言えるって…は、恥ずかしっ)

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