『影山くん』



一人佇む君に声をかける。

小さな背中は私よりも小さい。
しょんぼりした空気を纏っていることに本人は気付いているのだろうか。
皆は「影山はいつも調子のいいことを言う」って距離を置いているけど私にはなんとなくわかっていた。
影山くんはそんな事を考えて言っていたんじゃないって。


「苗字さん…」
『名前でいいよ。私も輝くんって呼んでいい?』
「あ、うん…」


影山くん改め輝くんの前の席、山田くんの席を拝借して縮こまる輝くんに向き直る。
同い年、同じクラスなのになんでそんなに縮こまってるんだか。…って今の状況じゃ無理か。


『別に気にしなくていいのに』


両肘を机について本音を漏らしてみれば輝くんは目を丸めて顔を上げた。
ぱちくりと開いた瞳とバッチリ視線が交差する。


『やっと顔あげた』
「いや…あの…」

『あ、輝くん結構目大きいんだね。羨ましい』
「え?えぇ?」


どうやら輝くんはこう弄られる事に不慣れなよう。
…なんか女の私より可愛いなぁ。
輝くんはわたわたとした困惑の表情で私を見つめている。


『あのね輝くん、ちゃんとわかる人にはわかってると思うよ』
「…え?」


さっきよりは意味も声色の変わった返事。


『輝くんは誰も傷つけたくなくてあんな風になっちゃってたって事』
「!」

『少なくとも私にはわかってるから』


いつもいつも輝くんは"皆の味方"だった。
だから誰の敵でもない。
そんな敵のいない輝くんを妬んだのはそんな"皆"
元より虐めっていうのは自分勝手なものだけどこれはそのどんな虐めより自分勝手だと思う。
嫌悪感の少ない筈なのにそれを妬む。

これだから自分勝手な人って嫌い。


『私はそのままでもいいと思うよ』


とりあえずは私の思いを告げてみる。
これを聞いた上で輝くんがどうするかは自由だけど。
周りの奴らは放っておけばいいと思う。



「……ううん。やっぱり僕が変わらないとダメなんだ」

『…そっか』



輝くんの目からさっきまでの迷いの目は消えていた。
まっすぐな目でそう言えるならひかる君はきっと大丈夫だろう。


「だから、さ」
『うん?』

「名前にも…見てて、欲しい」


今度は私が目を丸くする番。
あぁそんな事も言えるんならもっと輝くんを見ていてもいいかな、なんて思っちゃう私がいた。




誰かの視線自分の視線

(じゃあもっとカッコよくなって私にもう一回そう言ってよね)

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