私は現代文化の電子機器が嫌いだ。
というか、携帯電話が嫌い。
今時それのせいで破局だの浮気発覚だのの問題が起きる訳であってそんな適当な恋愛の確認なんてないと思う。
だからメールも電話もあんまり好きじゃない。
ただ単に思いを伝えるなら直接言うべきであって思いの篭らない電子機器で思いを伝えたって意味なんかない、少なくとも私はそう思ってきた。

私は彼に思いを伝えたし彼だってそれに答えてくれた。
南沢は私が携帯嫌いって言うのを理解してくれてる分付き合うのは楽に感じる。
携帯に関して苦を持つことはないし気兼ねない付き合い方ができている…、と思う。

それ故に私の携帯は必要最低限の機能しか使わない。

メール電話も緊急の時以外使わないし私の友人も緊急の時以外は私が返信してこないのは知っているから基本的に携帯を使いこと自体は少ない。



pppppp

『…もしもし南沢?』



そんな私に珍しい着信。
画面に書かれた名前にどうかしたのかと手に取って着信ボタンを押す。


「お、出た出た」
『…用がないなら切るけど』
「あー悪い悪い。今出れるか?」

『…?』


南沢と電話するのは待ち合わせの時ぐらいだから珍しい、と思いつつ携帯を片手に上着を羽織って財布をポケットに突っ込んで外に出た。


『で?要件は?』

「そう急かすなよ。とりあえず河川敷」
『はぁ?』


更に訳が分からない。なんの用があってそんなところに行かなきゃなんないの。
バカバカしいと思いつつもふざけたことにこの連絡手段を使うような奴じゃないから悪態を付きつつも足はしっかりと河川敷に向かう。
マフラー巻いていても口元から漏れる白い息。
…くだらない用事だったらシバき倒してやるんだから。



『もうすぐ着くわよ』



携帯越しにくだらない会話を続けていたらあっという間に河川敷は目の前へと迫っていた。
南沢の姿がないところを見ると呼び出した張本人はいないらしい。どういうことだ。


『……あ』


文句の1つでも、と思って開いた口から歓声の声が漏れる。

理由は空から降ってきた白い雪。

ふわりと降り注ぐそれに年甲斐もなく手の平を天に広げた。
受話器からどうした?と南沢の声が聞こえて外に出てればわかるわよとちょっと意地悪く返事を返した。



「「変にひねくれるなよ」」
『え?』



電話越しの声ともう1つの声が重なって聞こえて後ろを振り返ると。
そこには携帯電話片手に佇む南沢が不敵に笑いながら立っていた。

人通りのない河川敷に向かい合う私と南沢。


『要件は?突然電話なんかしてきてなにかあったの?』


滅多に使わない連絡手段を使ってまで私をここに呼び出した理由。
雪がしんしんと降り注ぐ中、南沢は私を見つめて笑う。


「別に理由なんてねーよ」
『え?』


じゃあなんでわざわざ、と言おうとした言葉は全部南沢の唇に飲み込まれた。




「じゃ、こうしてお前と初雪が見たかった、って言っとくか?」




肌寒かった空から降り注ぐ白い雪と南沢に包まれ河川敷で肩を寄せ合う。
こんなことがあるんなら、時には携帯に頼っちゃってもいいかな、なんて。

そんな事もちょっと脳裏で考えながら南沢の胸に顔を埋めた。






理由なんて後付でいい

(ただ君に会いたいだけ)

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