後ろ手に隠した小さな箱にマサキは1つの願いを込めていた。
綺麗に、そして可愛らしくラッピングされた箱はきっと男性には似合わない様なところでそれを購入したのではないかということを伺わせる。
登校時は鞄の中に収められていた箱は現在マサキの手で役目を果たすのを今か今かと待ち望んでいる。

柄にもなく買ったプレゼント。
自分でもこんなことするのは最初で最後だろう。そう思いながらそわそわした様子を隠せず視線が右往左往している。
普段は飄々としているマサキの珍しい光景は傍から見ればなかなか滑稽な光景だっただろう。
だが本人はそれにまさに気付かず待ち人き来たらず状態を継続中。


「名前!」


もたれかかっていた背中を壁から離し、向かいから歩いてきた人物に顔を上げる。
スキップと形容しよう軽やかなステップで廊下を走る相手は、マサキの待ち人だった。


『あ、マーくん!どうしたの?』
「…その呼び名やめろって何度か言っただろ」
『だってマーくんはマーくんだもん』


でしょ?と首をかしげる名前が幼い頃よりマサキは嫌いだった。
幼馴染、と言う間柄である名前とマサキ。
過去によってひねくれた性格と化してしまったマサキに純粋な笑顔というのは己を見返すことをさせ、妙に恥ずかしくなってしまうのだ。

赤くなったのはその恥ずかしさだけではないのだがここでは割合することにしよう。



『でさ、マーくんどうしたの?』
「……〜〜!」

『え?あ、わっ』


「……ちょっと付き合え」

『ちょっとって、マーくん授業は!?』
「サボる」

『へぇぇぇ!?』



あれよこれよという間に手を引かれ連れて行かれた場所は誰もいない屋上。
風に吹き抜ける外に思いっきり髪が遊ばれる。
何も考えずとにかく人のいない所、と思っていたマサキですらこの選択肢はミスだと思ってしまう程の風が吹き向けた。

でもそれでは何も伝えることはできない。
後ろ手に隠したこれを渡すことも、名前に2文字の言葉を言うことすらも。



『マーくん?』

「…名前」
『?』


マサキはスッと名前の左手を取り、ずっと隠していた小さな箱をその手に乗せた。


『…これ……?』


中身は何なのか、あえてマサキは語らない。


「……お前がこれから先俺のこと"マーくん"って呼ばなくなって、俺のことを男として見てくれる日が来たら…これを付けて欲しい」



自分勝手な願い。

だがそれは2人の間に確かに存在する小さな賭けのようなもの。
自分の私は箱の乗ったままの左手をマサキは自分の顔に近付け唇に触れさせた。




薬指に賭けましょう

(その未来の運命を)

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