北風がびゅんびゅん吹き荒れる外界。
私は自ら自分の体温を下げて震える様なことは正直したくない派の人間だ。
子供は風の子だなんて専ら嘘だろ。現代っ子嘗めんなよ。
誰に向けての悪態かなんか知らないけどとりあえず。


『文明の進化って素晴らしいよね…!』

「人んち押しかけてそれですか」
『いっやー悪いね倉間くん!倉間くんち丁度塾の帰り道だからさ!』


素晴らしい文明進化の証、こたつに優しい後輩。うん。私はいい後輩を持ったな!
塾帰りの夕方、私はよくこうして倉間くんの家に押しかけている。
嫌な顔はするけど決して嫌と言わない、倉間くんは優秀な後輩だと思う。
(え?先輩だから言えないだけだって?そんな馬鹿な!)

ぬくぬくとしたこたつで、したくもない勉強をする為に外にでたせいで冷えた手を温めていたら篭に入ったみかんが差し出された。


『食べていいの!?』
「どうぞ。まだあと何袋かあるんで」
『やったー!』


もうこれじゃどっちが後輩かわからないよね。我ながら。
それでもこのこたつとみかんと言う黄金の組み合わせに巡り会えたなら万々歳、儲けものだ。

ちゃっかり倉間くんの家で間食をいただき、倉間くんも私に並んでこたつでみかんを食べる。
こたつの中で時々触れる足先は冷たい。
ずっと家の中にいるんじゃないのかい倉間くんとか思いながら濃いオレンジ色の皮に包まれたみかんを剥いていく。
おっ、これ綺麗に皮剥けるタイプだラッキー。
ちなみに私はみかんについてるあの白い繊維状のものは剥いて食べる。
でも倉間くんはあれを剥かずに食べるらしい。
なんかあれみかん自身の味邪魔されるから好きくないんだよねー…。
まぁ味覚はそれぞれだから特に気にしないけど。


『倉間くん足先冷たいねー』

「…そうすか?」
『うん。なに、外出てたの?』


すると倉間くんのみかんを剥いていた手がピタリと止まった。
なんか変なこと言ったっけ…?
倉間くんは一旦止めた手を再び動かし始めた。
剥いたみかんの白いアレを取らずに表面の白っぽいみかんを頬張りながら酷く落ち着いた感じに落ち着く。



「……毎週この時間は先輩が来るから何か買いに行ってるだけなんで」



こたつで温まって血流が良くなったのか、少し素直じゃない倉間くんが恥ずかしがって赤くなったのか。


『わざわざ私の為に!?』
「悪いですか」
『いや悪いどころかありがたいけど!』


どちらだとしてもこの状況を作った元凶は私にあるようだ。
かといって私にできることなんてないという悲しい現状。
腕を組んでどうしようと考え、一番いいのはこれから先倉間くんちに押しかけないことなんだけどそれは脳内で第一に却下した。
(だって倉間くんちで休憩しないと家まで帰る体力なくなっちやうし)


『あ、じゃあ私が来る道で何か買ってくればよくない?』
「あー……いや、いいです別に。俺の気分で買ってきてるんで」

『でもそれじゃこっちが申し訳ないんだけど…』
「いいんですよ」
『んむ』


食い下がろうとした私の口に口封じか倉間くんがみかんを突っ込んできた。
だから私は白いアレは剥くタイプなんだってば。


「先輩がウチに来てさえくれれば」


口内にみかんの酸っぱい味が広がる。
それを咀嚼している間に、いつの間にか冷えきった体はポカポカに温まっていた。








こたつとみかんとキミと

(えへへー…ありがと倉間くん)
(…どういたしまして)

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