身の丈に合った服装と言うのは誰にでも当て嵌まる。
学生なら学生らしく。女なら女らしく。男なら男らしく。

身の丈に合わない若作りなんかをすると思わず指を指して笑われたりする。そんなおばちゃんを誰もが見たことがあると思う。
今回はそんなおばちゃんの話ではない。




「………」
『………その沈黙やめてくれない?』




いつもズボンしか履かない私が痛くもスカートなんかを履いてみちゃった話である。





今日は蘭丸と久々のデートだった。
いつもいつもズボンしか履かない私とデートしていた蘭丸は前に女だと間違えられたことがある。
ついでに私が男だと思われたりする。

蘭丸がそれを気にしてるんじゃないかと私が思考に錯誤を重ねた結果。
行きもしない服屋に駆け込んで買ったワンピースは、自分でもらしくないだなんて思った。

少し肌寒くなってきたこの時期には足を出すのは辛いものがあるけど、蘭丸の為にと思ってやったのにこの無反応。どうしてやろうかこの男。

似合わない事ぐらい分かってるわよ。

だからこそ無反応って言うのが一番腹立つ。
似合わないなら似合わないって言ってくれればいいのに。
(こんなことなら着て来なきゃよかった)
待ち合わせ場所で私の目の前で硬直する蘭丸に小さなため息を一つ。



『もういい。帰る』



せっかくのデートは私の奇行に出鼻をくじかれたらしい。
なればここに来た意味はない。
さっさと帰って着替えよう、思って蘭丸に背を向ける。
翻したスカートの裾がゆったりと舞った。これを履くのに私がどれだけ勇気を振り絞ったと思ってんの。



ぱしっ


『…なに』
「なんで帰ろうとするんだよ」
『蘭丸が何も言わないから』
「今言った」
『そーじゃなくて!』



分かってるだろうに私の腕を掴んで俯いたままの蘭丸。
言わないんなら言わないで早く私をこの羞恥から解放して欲しい。
なのに蘭丸は私の腕を離してくれない。
じれったくなってもう、と振り向けば遠心力で腕が離れていった。



『似合わないなら似合わないってハッキリ………っ!』



しなさいよ、

言いかけた台詞は頬を真っ赤に染めた蘭丸の表情に持って行かれてしまう。



「だ、誰も似合わないなんて言ってない」



私なんかより遥かに赤い頬。
だから蘭丸は女に勘違いされるのよなんて思いながら私は蘭丸に意地悪な言葉を投げ掛ける。


『じゃあ似合わなくないをもっとわかりやすく言って』



これは私の望む言葉を早く言わなかった罰であって私は悪くない(筈)。
じゃあこれくらいの見返りぐらい貰ってもいいよね。
赤くなってないで男らしく言って貰おうじゃないの。



『ね、蘭丸』

「…似合ってる。可愛い」
『!』



真っ赤な顔のままはにかむなんて、反則だってなんで気付かないかな鈍感男…っ!
私なんかより可愛いんじゃないかなんて疑問を胸に抱きつつ、掴んでいた腕ではなく次に絡められた指先に熱が集まって行く気がする。

風が吹いてふわりと舞った白いスカートに反意する赤い顔のまま私達は手を繋ぎながら騒がしい街中を歩き始めた。




身の丈ワンピース

(…蘭丸の天然たらし…)
(え?)

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