男と女のお付き合いっていうのは甘酸っぱい片想いから始まり結婚がゴールイン。
だなんて虚像を追いかけていた数か月前までの私。


『…手すらも繋げないだなんて……』


机に項垂れて自分の手を見つめてみる。
隣で茜ちゃんがそんな私の写真を撮っていた。

そんな写真なんか撮ってどうするの茜ちゃんよ。



「なんだぁ?また速水とのノロケか」
『ノロケじゃない真剣な悩みなの水鳥ちゃん』

「…それも聞きた」
『うぅ…それを言わないでよ茜ちゃん……』



百歩譲って甘酸っぱい片思いはした。
一年生の頃から二年生に上がるまで、私は速水くんに片思いをしていたのだから。

それが実った二年生の初め。
舞い上がりに上がったもののいざ付き合う、となったら途端に恥ずかしくなるだなんて。
今まではグランドで速水くんの姿を探すことになんの抵抗もなかったのに目を合わせるのがちょっと怖い。


「見ててじれったいからさっさと手ぐらい繋げ!」
『それができたら苦労してないぃぃぃ!』


バーンと手で机を叩きながら顔を上げる。
目があった水鳥ちゃんはすっごい怪訝そうな顔をしていた。
水鳥ちゃんみたいに積極性があればもっとこのお付き合いは発展してるんだろうか。
茜ちゃんみたいにひたむきな思いがあればいいんだろうか。

お世辞にも速水くんも私と同じとで積極的とは言えない。
私の性格も相乗してなかなかステップが踏めずにいるのは確か。


『……付き合うって…なんだろ』


今の私は幸せなの?
影から速水くんを応援していたあの頃の方が幸せだった?

そんな言葉を呟けば水鳥ちゃんと茜ちゃんは席を立っていった。
一人にして欲しいことを察してくれたんだと思う。
さすが私の友人だね、よくわかってる。
窓からグランドを覗けば人影は1つも見えない。
あぁそうだ今日部活動ない日だっけ。(だから2人ともいたんだった)


「名前っ」
『あ、速水くん』


開いたドアに一瞬2人のどちらかが忘れ物でもしたのかと思ったらそこに立っていたのは速水くんだった。
ちょっとビックリしたけど速水くんは顔を俯けながらも私のもとに歩いてくる。


「その、よかったら一緒に帰らない?」
『え?』
「…僕、今まで女の子どころか人ともまともに付き合ったことなんかなかったから……付き合うってことがよくわからないんだけど、名前を大事にしたいとは思ってる、から」


速水くんの髪の毛みたいな少し赤い顔が私と視線を合わせる。
不安に揺れている瞳、でも彼は凄くまっすぐで。

ホント、我ながら陳腐な悩みごとだったなと笑ってしまった。

速水くんはこんなに優しいんだから。
前に進むのはちょっとずつでもいいよね。



『速水くん速水くん』
「なに?」

『その……手、繋いで帰らない?』








うん、とはにかんだ彼の暖かい手に私の手が包まれるのは数秒後のこと。








前進、後退

(速水くん、もしかしてさっき水鳥ちゃんに会ったりした?)
(…うん。"うじうじすんなウゼェ"って背中叩かれた)
(……み、水鳥ちゃん…)

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