『篤志は私がもういらないの?』

ごく当たり前の流れの様に私は問い掛けた。


『それ』


指差した南沢の首筋には沢山の赤い花。

馬鹿な奴。

この私がそんなわかりやすい嘘に引っかかるとでも思ってるのだろうか。
同様を見せない私に篤志はどう思っているんだろう…ま、知らないけど。
嫉妬なんかするはずもない。
だってこんな篤志を本気で好きになってやれる物好きなんて私ぐらいだって自負してるから。



『別れたいなら言えばいいのに、随分遠回しなのね』


だから私は篤志の不器用な優しい嘘に引っかかってやるの。

初デートで貰ったリング。
静かに、でも乱暴に机に叩きつければ虚しく音を立てて転がっていくそれを私はずっと目で追いかけていた。
そういえばこれを貰ったときはプレイボーイに似合わない真っ赤な顔をしてたっけ。
懐かしいなぁと言う半面さっさとケリを付けてこいよと思う私。

何も語らない篤志はどう思ってるんだろうか。
わからないけど今この瞬間私たちは恋人ではない、なにか違う関係になったのだろう。
恋人でなければきっと友人でもないこの変な関係。

さぁいつになったらこの関係は元に戻るかしら。


バレてないとでも思ってるのかしらね。
―アンタが転向することなんて車田くんから聞いてるのよ。





『さよなら。ありがとうなんて言ってやんないから』





私たちがもう一度出会うための別れ。
必ずやってくるそれをわざと作ったからってお礼なんて言わないんだから。


ピシャンと教室のドアを閉めて、そのドアにもたれかかった。
きっとこの扉の向こうで篤志は煩わしいあの赤いフェイクをぬぐい去っていることだろう。
さっさとその面倒くさい気持ちもぬぐい去ってよ。

私が今度ありがとうを言うのは篤志がまたあのリングを持って私の前に現れた時。
それまで貴方の安い芝居に騙されててあげる。




さよならの裏の"ありがとう"

(待ってるなんて思わない)
(だって再び出会うのは必然でしょう?)

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