※悲恋チックだけど悲恋じゃないです。
地味に続きます












『篤志は私がもういらないの?』

ごく当たり前の流れの様に名前は問い掛けた。
それはまるで朝に友達に出会って「おはよう」を言うぐらい当たり前の流れ。
ただ違うと言えばこの教室には二人以外の人がいないと言う事ぐらい。


『それ』


指差した南沢の首筋には沢山の赤い花が散っている。
その赤い花は予測に過ぎないが激しい事情を連想させる。
隠すこともなくさらけ出された花に、名前は動揺の色を見せない。


南沢がプレイボーイなのはなんとなく分かっていた。
それを承知で付き合っていたから傷付かなかったと言うのは皮肉なのか何なのか。

嫉妬なんかしない。

名前も顔色を変えず南沢に告げる。



『別れたいなら言えばいいのに、随分遠回しなのね』



ガタリと席を立ちカバンを肩にかけ、初めてのデートの際に南沢に貰ったリングを指から外した。
思い出、脆く儚いそれを一緒に込めて南沢の机に静かに叩きつける。
叩きつけられたリングが小さな音を立てて転がって机の下に落下。
南沢は何も語らずピクリともしない。
恋人…いや、"元"恋人と言おう二人の間に既にそう言った関係はなかった。


『さよなら。ありがとうなんて言ってやんないから』


断ち切られた関係はもはや意味を持たず、名前は黙って教室を去っていく。
教室に残ったのは南沢と静かな空間。床に悲しく残ったリング。

空の赤い赤い夕日が自分を嘲笑っているように見えた。
同じぐらい赤い首に散った花。
南沢はカバンからティッシュを取り出し首元を思いっきり擦る。
するとどうだろう。赤い花は全て綺麗にぬぐい去られていた。



「俺だって言わねぇよバーカ」



ありがとうも、さよならもな。



南沢は明日月山国光へ転校することを話してはいなかった。
別れなんて告げられるはずもない。

だから距離を離すためにした安い演技。
赤い花なんてただのフェイク。



―次に会った時は驚かせてやる。



別れを告げたことなんて後悔するぐらいに。
赤い夕日に照らされ、擦りすぎて赤くなった首筋に少しの痛みを感じながら南沢は小さな笑みを浮かべた。





赤に染まる

(次は貴方色に染まるまで)


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