グラウンドへ行くまでには結構滑る階段がある。

まぁ雪の降り積もった白恋中で滑ってコケるなんて日常茶飯事。
カバンを持って帰宅しようとしようがサッカーボールを追いかけていようが結局は一緒で。
慣れていると言っても1日1度は誰かがコケている姿を目撃する。

雪村はいつもの通り自分は滑らないようスパイクに履き替え、サッカーボールを抱えて階段を下りた。
スパイクの助けがなければ降り慣れた階段であってもまっすぐ降りれているかは怪しいところだ。


『きゃぁぁぁぁぁああ!』



吹雪が来る前に準備をしよう、ボールを置いて倉庫へ向かおうとした時ズダダダダッと派手に階段を滑り落ちる音が響く。


『いったたた…』


進行方向、階段下に女子生徒。
どうやら刺なんか付いていない無防備なローファーで階段を降りようとしたところ予想通りというかなんというか、滑り落ちたらしい。


「大丈夫か?」
『え?ふぁぁっ!ゆ、ゆ、雪村君!?』


落ちたときにぶつけたのであろうお尻を摩っている彼女に近づけば予想以上の反応で若干乱れていたスカートをバッと抑える。
滑った瞬間を見られたことかお尻を摩っている所を見られたからか、その頬はあっという間に真っ赤になった。
その反応に幸村は逆にどうかしたのかと問いたくなったが彼女のためにも聞かないでおこう。

差し出された手に助けられ立ち上がり、雪の付いたカバンを軽くはらう。


『恥ずかしいところをお見せしました…』
「別に転んだところは見てねーよ。…ぶつけた所大丈夫か?」

『や、やっぱり見てるじゃん雪村君!うぁぁ恥ずかしいっ…!』


雪すらも溶かせそうなほど真っ赤に紅潮した頬を抑えてブンブンと頭を振りかぶる。


「と言うか、一般生徒だよな…?なんでグランドに?」


そんな姿を改めて見やり、マネージャーなわけでもサポーターでもない彼女に問いかけた。
あの有名な吹雪を見に来ようという輩はたくさんいたが、吹雪が来るのはもう少し遅い夕方から。
その情報もどこからか回っているから人が集まるのはもっと遅くなってからなのだ。


『私?私は雪村くんのファン!』
「…え?」

『いっつも吹雪さんが来るまで雪村君練習してるから見てたんだ!今日はちょっと下で見学しようかなーと思ってたら……その、階段で…』


階段で、の続きはさっきの通りなのだろう。
口ごもった彼女を見開いた目で見つめれば彼女ははにかんで笑う。




『私は苗字名前!これから白恋が強くなって有名になっても私が雪村君のファン第1号だからね!』




その笑顔は転んで真っ赤になっていた名前と同じ、雪すらも溶かしてしまいそうな温かいものだった。










雪解けの時

(君の笑顔に、溶ける)


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