馬鹿みたいな質問をしてしまった。
いつもバカみたいに笑っている海士にバカみたいな嫉妬。
思わず言ってしまった。


『私とサッカーどっちが大事なの』


…昼ドラか。と言うツッコミはナシの方向でお願いしたい。
いや、あえて言うなら昼ドラよりも質が悪いと思う。
だってあの時の私の表情はかなり凍っていただろうから。
昼ドラでよくあるみたいにテーブルに両手を叩きつける様に興奮してはいない。

でもあの瞬間教室が静まり返ったのは若干いたたまれなかった。
誰がって?海士じゃない。私が。

教室の時が止まっちゃったねあれは。
ごめんなさいと言うのも怖いあの沈黙。
言うタイミングを逃した私はとにかく教室から抜け出した。
唖然とした濱野と隣にいた速水と倉間は放置。うん。ごめん2人共。


意味もなくただ逃げるだけのために教室から抜け出したからには私が行く宛があるわけもなく。
とりあえず屋上にでも行こうと足を向けた。


あーあ。飲みかけの紅茶持ってきたらよかった。
さっき海士への怒りはどこへ行ったんだろう。
いや勿論怒りが消えたわけじゃないけど我ながらさっぱりした怒りだ。



サッカーをしてる海士が幸せそうに笑ってるから。
私といる時も幸せそうに笑ってるから。

海士が幸せならどっちでもいい筈なのに。




『……いつからこんな我侭になったんだんだろう』




フェンスにもたれかかってフッと息をつく。
そんな自分に嘲笑をプレゼント。
残念。嬉しくもなんともない。

最初は付き合えるだけで幸せだったのにいつの間にか我侭になっていた。




「あ、いたいた名前ーっ!」

『っひゃぁ!!』




ぼーっと空を眺めてたら急に背中に重みを感じる。
吃驚して前かがみになればもたれかかってフェンスがたかしゃんと音を立てた。あ、危なっ…!


「なんで置いてくんだよ」
『…なんで付いてきたの?』

「?なんでって…名前が好きだからに決まってるっしょ?」


フェンスにもたれかかっているから危ないってのに海士は恥ずかし気もなくそんなセリフを言いながら引っ付いてくる。
背後からでよかったなぁとちょっと思う。

だってまっすぐ抱きつかれてたなら真っ赤な顔がバレそうだから。



『…さっきの』
「さっき?サッカーと名前とーってヤツ?」

『………うん』



なんでこんな気にしてないんだろう。
海士の明るさが時にわからなくなる。
教室であんな固まってたくせに。

と言うかあんな冷たい視線を浴びてびくともしないなんて鈍感というか天然というか…まぁ要するに流石海士と言ったところだろう。
気にしてた私がバカみたいに感じてちょっと悔しい。




「だって俺名前もサッカーも好きだし!決めらんねーもん」




そしてこの能天気さに私の馬鹿みたいな質問の答えなんてどうでもよくなる。
背中から回された腕に自分の手を重ねて私はさっきと同じ、でも意味の違う溜息をついた。





バカみたいに

(明るくて能天気で)
(そんな君がバカみたいに大好き)


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