突然やってきたソイツは。 私の中の色んなものを奪って行った。 サッカーに対する考えも (それは薄々感じていたけど) 背番号10のエースの座も (まぁ弱肉強食の世界だからしょうがないって言ってしまえばそれまでなんだけど) そしてなにより 私の心を。 『…南沢』 「なんだよ」 ベンチで一人休憩している南沢に声をかけた。 少しボーッとした様子に見えなくもない南沢は私に顔を向けるでもなく素っ気ない返事を返す。 そう言った反応がない事は予想済みだったので特に気にはしないでおく。 私に見向きもせず南沢がじっと見つめているのは月山国光のグラウンド。 前まで彼のいた雷門のグラウンドではない。 『…寂しい?』 やっと南沢がこっちを向いた。 パッと漏れていたのはここに来た時からずっと聞きたかった事。 今までの2年間を棒に振って転校までして。 それで得たものはあるのか。 無くしたものの方が大きいんじゃないのか。 「何がどう寂しいっつーんだよ」 『…そう聞かれたら、まぁ…あれだけどさ』 「別に関係ねぇよ。良い内申貰えりゃそれでいいし」 突き放したような刺のある言葉に胸が切なくなる。 余裕ぶった態度が、真実か嘘かは本人にしかわからないけど、今はなんとなく嘘なんじゃないかなぁなんて勝手に思案する私。 彼自身はこんなにしっかりしてるくせに心は一人ぼっちで。 荒れ野にポツンと迷子になったけどそれを認めたくなくて虚勢を張る子供の様にしか見えなくなってしまう。 虚勢で塗り固めた心に光は当たらない。 言葉にならないけど、それが寂しいってことじゃないかな、思うだけで声に出したら伝わらなそうだから言わないでおく。 だから私は何も言わずに南沢の隣に座り込んで、ベンチに置かれていた手に自分の手を重ねた。 「…さっきから何だよ」 『南沢が一人ぼっちじゃないって教えてあげようと思って』 私のなけなしのプライドは捨てて恥ずかしい台詞を呟いてみる。 そんな南沢は馬鹿じゃねーのと呟いて私の手をぎゅっと握り返した。 ふたりぼっち (ひとりぼっちがふたり) (それだけでほら、こんなに暖かい) _ |