何かを"忘れる"ことは罪だと思う。

そりゃあ些細な物忘れは誰だってあるし俺にだって忘れたことの一度や二度はある。
今だって一昨日の夕飯を思い出してみろと言われたらそれすら思い出すのは危ういかもしれない。

でもそれだって忘れたものに対する罪だ。
そんなちっぽけな人間の記憶。
記憶のキャパシティは限られていてそれをうまく整頓できるか出来ないかで覚えてられる事なんか決まっちまうだろう。

ふとしたとき、それに気付いては己を振り返ることも何回だってあった。

だが思い出そうとして思い出せる記憶なんてほんの一握りだけ。
量でいうなら圧倒的に思い出せない事の方が多い。
ふと思い出せたと言っても整理されていない引き出しから流れ込んできた記憶でしかなくて。
実際にはそれを頭に鮮明に覚えていたのかと言うとそうではないのかもしれない。

だから俺の記憶も酷く曖昧。
小さかった時のこともくだらないことも。
全部全部記憶の彼方に忘却して。
俺はそうして自分を守ってきた。

嫌なことは忘れようとしてもなかなか忘れられないもの。
無理やり押し込めようとして、結局溢れてくる負の感情。

本当に忘れたいことならばこうして"嫌な思い出"といて甦ることはないだろう。

結局忘れられない。それが負の記憶ってもの。
負の記憶こそを忘れるという罪にしてやりたいのに、それもできなくて。
無駄な悩みはずっと付き纏う。

そして今の俺は1つの思考に至っていた。






なら、"忘れさせる"ことは罪だろうか。






俺は忘れない。


目の前で上がった血飛沫。
辺りからあがる甲高い悲鳴。
けたたましく響くサイレン音。


呆然と佇む、俺。



忘れやしない。
忘れられる筈もない。



―『貴方……誰?』




名前に"忘れる"という罪を犯させてしまったのは紛れも無く俺なのだから。






忘却の彼方

(あの暗い夜に無くしたものは)
("忘れる"という選択肢すら忘れさせた)










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※補足
(一応)主人公がマサキを庇って事故に遭って記憶喪失になった的なシチュエーション。

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