空を見上げれば色はそれは薄暗い曇天。
私の気分も曇天。分厚い雲に覆われたままです。


『なによ。拓人のタラシっ』


一方的にふてくされる私はきっと世間的には可愛くない。
わかっててもこの感情は消えてはくれなくて現在に至る。


『……茜ちゃんに鼻の下伸ばしちゃって…』


ぷんすか、多分音をつけたらそんな感じだと思う。
茜ちゃんが拓人にそれとなく気があるのは知ってる。(茜ちゃんは恋愛じゃないよって言うけど)

カメラ片手に写真を撮る茜ちゃんは女の私から見てもキラキラしてて可愛い。
今日もそうして撮れた写真を本人たちに見せに行く茜ちゃんの後ろ姿はとっても光り輝いていた。

それに比べてこんな些細なことに嫉妬しちゃう私。
拓人もなんで私なんかを選んだんだろ…。
最近そんな感じでちょっと自信をなくしていたりする。


「名前ー!お客さんよ!」
『?はーい!』


ベットに寝っ転がっていた私に声をかけたのはお母さんだった。
誰だろう。部活途中で抜けてきちゃったから葵ちゃんとかかな…?

自室を出て階段をかけ降りる。



ガチャッ



目の前にあるドアを開ければそこには心配そうな顔をする葵ちゃんが


バタン


…いなかった…!!!



「ちょ…!?名前!?」
『なんで拓人がウチに来るの…!?今練習中でしょ!?』



そう。予想に反してドアの向こうに立っていたのはユニフォーム姿の拓人だった。
一瞬開けた扉の先に見えた拓人は息を切らしている。
そこから容易に想像できることは拓人が私の家まで走ってきてくれたってこと。

顔を合わせ辛い。
でも私のために走ってきてくれたことは嬉しかった。


『なんで来たの。キャプテンが練習までほっぽって』


口先から漏れるのはやっぱり可愛くない言葉。
なんで私は茜ちゃんみたいに可愛くなれないんだろう。


「……名前が、急に帰るのが見えたから…気になって。監督にはちゃんと言ってきた」
『…!』


ちょっとドアノブにかけていた手の力が緩む。
早々と帰ろうとした私、ちゃんとみててくれたんだ。
でもドアノブを回すことはしない。

今度はこっちがどうしようもなく恥ずかしくなってドアが開けられなくなってしまった。


『…茜ちゃん、放って来てよかったの?』
「山菜?」
『写真、見てたじゃない。楽しそうに』


どうなっても私の口から滑るのは可愛くない言葉の様。
口調が尖っているのが自分でもわかる。
拓人の方も私の口から茜ちゃんが出てきたことにまだ理解ができてないみたいだった。

しばらく沈黙が続いて私はドキドキしていた。
愛想つかされたらどうしよう。
面倒な女だって思われたらどうしよう。
マイナスな思考がぐるぐると巡る。

すると予想に反して次にドアの向こうから聞こえたのは軽快な笑い声だった。


『なっ、なにがおかしいのよ!』
「いや…可愛いなぁと思って」

『……!』



ガチャリと勢いでドアノブが回ってしまった。
あ、と思わず漏れた声に拓人は笑っている。


「やっと出てきたな」
『こ、れは勢いで…!』
「そういうのが可愛いって言ってるんだ」

『拓人のタラシ…』


拓人の両腕に閉じ込められてしまえば私は何も言えなくなる。
汗の滲んだユニフォームに私は拓人が痛くなればいいと思うほど思いっきりしがみついた。





ドアの向こうへご案内

(あの写真、お前のだからな)
(はぃっ!?)

_


- ナノ -