何度この白いシーツを憎らし気に思ったことだろう。


「名前さん、」
『あ、京介くん久しぶり!』


その憎いシーツを握り締める度に巻き込めれたシーツにシワが増えていく。
いっそのことこのシーツを赤に染めてしまいたい。
そしたらこの握った拳は彼には見えない筈だから。


『今日優一くんは……あ、リハビリだったっけ』
「はい。…名前さんが元気そうでなによりです」

『あはは、京介くんのおかげかもね!』


おどけたように言ってみたけどこれは本心。
京介くんは笑うけど私にとっては本当に京介くんは支えなの。

私と京介くんが初めて会ったのは今日みたいな少し肌寒い初冬だった。
同い年ということもあって仲良くさせてもらっていた剣城優一くんの病室に遊びにきていた時のこと。
優一くんに同じく足を患っている私は別途に座る優一くんの隣に鎮座していた。
箱庭のような病院で唯一私の休める場所、それがこの病室だ。

先生や看護師さんたちは優しい。

でもそれは同情からくるものだと知っている。
それが気付けない子供のままでいれたならどれだけ良かっただろうと今でも思う。

そんな中自分が素に戻れる場所。



「…君も足が悪いの?」
『え?』

「実は俺もなんだ」


一人ひっそりとリハビリ室に来ていた私に差し出してくれたのが優一くん。
私はそれ以来優一くんのところに顔を出すようになった。

そしてある日、優一くんによく似た男の子が病室に遊びにきていた。


『もしかして、君が京介くん!?』
「え、…」
「そうだよ、俺の弟の京介」

『わぁ!初めまして!いつもお兄さんにお世話になってるの!』


優一くんと違って少しコミュニケーションを取るのが苦手なのか京介くんは若干引いていた(気がする)

それから私とこの兄弟の関わりは始まった。
今となっては優一くんや京介くんが私の病室を訪れてくれるようにもなった。
口すら聞いてくれなかった最初からしたら随分な進歩だよね…。



同時に、私がこの足を呪い始めたのはこの頃だ。

でも皮肉にもこの足がなければ私には現在の繋がりはない。



『最近は優一くんも調子いいみたいだよ!』


そして裏腹に悪化する私の足。
私の足は優一くんみたいに後天性じゃなくて先天性だから、本当は今までのリハビリも無駄だったのかもしれない。

それでも諦めきれなかったのは私の欲だ。

一度だけでもいいから、肩を並べて歩きたかった。
今となっては過去となってしまったのだけど。



「兄さんが名前さんのおかげだって言ってました」

『えぇ〜買い被り過ぎだよ!私は何もしてないもん』



私のおかげ…そう言ってくれる彼らは本当に優しいと思う。
だから私はその優しさに甘えちゃうの。

隣を歩くことが不可能ならせめて、



せめて



その背中を押させて。









縮むことのない距離は

(わかっているから、)
(お願いだから君を眺められる所にいて欲しい)


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