夜になって、私はふと空を見上げてみた。
幾多に瞬く星たち。
遠い遠い距離を超えて光を届けるそれは世間的には美しいと称されるのだろうけれど私にはとても儚いものに感じる。

この広い世界の…いや宇宙の中で私たちがここにいるというのは天文学的にはどれほどの確率なんだろう。
なんて、考えたって分かりもしないことに思考を馳せる。
だって馬鹿な頭だもん。この際だから開き直ってみた。
確率なんてどうでもいい。


星も私も確かにそこに存在している。


それだけが事実。
私を安心させるのには十分な事実。

私はふと怖くなるときがある。
これが事実ではなくて全部全部夢なんじゃないかって。
凄くリアリティな、考えたくもない悪夢。
見ている間は幸せ。でも同時に襲ってくるのは虚無感という絶望。

こんな時は妙に人肌が恋しくなる。
別に抱きしめてくれなくてもいい。
ただ誰かが私という存在を証明してくれればそれでいい。


ガラリ、携帯片手にベランダの窓を開けて外に出てみた。
冬に入りかけている夜は肌寒く、カーディガンでも持ってくればよかったなぁなんて思いながら再び私は空を見上げる。
人工的な光の所為で空に輝く星たちはどれだけ霞んでしまっているんだろう。

輝いている筈の星が見えないなんて残念で仕方がない。

持っている携帯を開き、履歴の一番上にある彼の電話番号を押した。



「……もしもし?」

『あ、蘭。ごめん寝てた?』
「悪い、風呂上がりなだけだ。何かあったのか?」



しばらくの無機質な呼出音の後に聞こえてきた我が彼氏、蘭の声。(蘭丸とは呼ばないんだよね)
電話を取るまでに間があったから疲れて寝てたかな、と思ったけどそうではなかったらしい。


『んー…何かあったって言うならあったんだけどさ』
「?」


あ、今きっと蘭の頭に疑問符浮かんでる。
まぁ私がこんな電話をかけるのはよくあることだから気にしてはいないと思うんだけどね。

私が電話をかけた事に特に理由はない。

さっき言ったみたいに、ただ人肌が恋しくなっただけ。


『蘭の声が聞きたかったから。それだけじゃダメ?』
「いーや。構わないさ」

『蘭のそういうとこ好きー』
「おいおい、そういう事は電話越しじゃなくて直接言えよ」
『や。恥ずかしいもん』


肌寒かった胸がほっこりしてくる。
やっぱり人の力って凄いなぁと感心してるとふと夜空に一線の光。


『あ!流れ星』

「流れ星って……今ベランダか?」
『うん』
「馬鹿。もう寒いだろ」


流れ星を見れた興奮でちょっとテンションが上がる。
蘭のちょっと呆れた声に私はしょうがなく体を家へ引っ込めた訳なんだけど視線は空に向いたままだ。
冷めやらぬ熱が私を脇立てる。
それは電話越しの蘭にも伝わったらしく落ち着けと一括されてしまった。


「全く…風邪ひいても知らないからな」

『そう言ってお見舞い着てくれるくせに』


そう言うと今度は蘭が押し黙った。
私に口で勝とうなんて早い早い。

黙ってしまった蘭にねぇ、と声をかければハッとした声でなんだと返す。



突然だけど言いたくなったの






『出会ってくれてありがと』





この広い世界で、ね。






運命の星空の下

(…明日は台風だな)
(なに。蘭こそ素直じゃないんだから)

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