慣れた足取りで私は毎朝自転車を漕ぐ。
風をきって自転車で走るのは嫌いじゃない。

向かう先はお寝坊さんな彼の元。
急ブレーキをかけて止めた自転車からは少し粉塵が巻き上がった。


『てーんーまー!』


近所迷惑にならない程度に大声を上げれば木枯らし荘から今行くーと天馬の声が微かに声が聞こえてきた。


「ごめんね名前ちゃん。天馬ってばさっき起きたばっかりなの」
『秋さん、おはようございます!』


日課の掃除をする為にか箒を片手にやってきた秋さん。
木枯らし荘からはバタバタと音が絶え間なく聞こえてくる。
あ、今階段から転げ落ちたな。


『騒がしいなぁ…』


そう呟いた時大きな音を立てて木枯らし荘のドアが開いた。
近所迷惑って言葉…教えたほうがいいかな…。


「ごめん名前!秋姉行ってきます!」

「はい、二人ともいってらっしゃい」
『行ってきまーす』


ガシャン、とストッパーを外して自転車にまたがる。


『天馬!乗って!』
「おうっ!」


これまた慣れた流れで天馬が後ろに乗った。
いつもなら天馬は特訓だって言って走ってるんだけど今日は時間もないし大人しい。

ただの自転車だったら同年代の男の子を乗せるのは若干きついんだけど残念でした私の自転車は電動自転車なのだ!
雷門近くの駐輪場を借りている私はこうして天馬と毎日一緒に登校をしている。
最初の方は俺が漕ぐって言ってたしお言葉に甘えて漕いでもらってたんだけど。

乙女の問題というか体重的な問題というか…何となくはばかられたので私が漕ぎ続けていたり。


「そろそろ代わろうか?」
『ん……まだ、いい』

「代わるとき言ってよ。降りるから」


それでも情けないことに体力のない私はこうして天馬に代わってもらう。
正直今すぐ代わってもらいたかったけどまだ代わってもらわない。



『いっくよー!』
「おー!!」



体を前のめりに倒して長くて急な坂道を駆け抜ける。
私はこの坂道を下るのが好きで仕方ない!


『気持ちいいねー!』


吹き抜ける風。
急な坂だからか天馬が私の肩を掴む手に力入るのが伝わってくる。

私がこの坂にこだわる理由のには理由があった。

そよ風じゃなく、大きな大きな向かい風に当てられて。
それでもまっすぐにこの坂を下って目指すべき所を目指す。
バカみたいかもしれないけど天馬みたい、だなんて私の惚気た理由があったりする。


『っはー!やっぱり気持ちいい!』

「ほら、坂も下りたし代わるって!」
『ありがと!』


私はえへへと笑いながら自転車の前後ろを交代した。


「行くぞー!」


元気な天馬の声にギュッと天馬の背中に抱きつく。
風をきって自転車を漕ぐ天馬。

その背中に掴まりながら私はそっと目を閉じる。


目の前にいる彼は風。
私を導く風なんだから。





Your My Wind!

(ずっとずっと感じていたいな)
(なんて、本人には言わないけど!)

●●


- ナノ -