静かな時間が好きな私にとって人が多い場所は煩わしくて仕方ない。
だから私は1人が好きだった。

教室は言わずもがな騒がしいから嫌い。
休み時間になれば周りがうるさくなる前に図書室に行くのが私の日課だったりする。
中学生で図書室を真面目に利用する人なんて滅多にいないから私にとっては好都合。

誰にも邪魔をされず気になる小説の続きが読める。

小さな文庫本に描かれた小さな文字の羅列、その世界が私の全てだ。
主人公に一喜一憂し、まるで小説の世界に入り込んだようになる。
時にのめり込みすぎて授業開始のチャイムに気付かなくなるほど。


現実味のない物語。


だからこそ私はそれに憧れる。
ベタな恋愛ラブコメディーであってもファンタジーなアドベンチャーでもミステリーであっても。

全てはこの薄っぺらい紙の上での出来事だから胸は踊る。



『ふぅ…』



薄っぺらいと言ってもそれが積もれば分厚くなるもの。
読み終わった少し分厚めの本を閉じて疲れた目を落ち着けるため一息をついた。

今回の本はなかなか当たりだったな、と席を立って本を下の場所に戻し次に読もうとする本を探す。


『次は何にしよう…』


司書の先生におすすめを聞いてみるのもいいけどこうして行き当たりばったりに探してみるのも面白い。
それで手に取った本が当たりだった時の嬉しさ。
あれはまたなんとも言えない感動がある。

題名や帯、あらゆる本を見つめその中から選りすぐりのモノを探す。



『(あ…あの本……)』



不意に1冊の視界の端にチラリと見える。
ちゃんと本の概要を見たわけではいないけど、なんとなくビビッときた。

足をその本のある棚に向け、本に手を伸ばす。

でも認めたくない事実。私は如何せん背が小さかった…!
本ギリギリのラインで右往左往する私の手。
届きそうで届かない距離が逆に腹立たしい。



『んっ…もうちょっと……!』



精一杯つま先で立って思いっきり手を伸ばす。
でも私が取ろうとしていた本は私の背後から伸びて生きた腕に取り去られた。


「この本か?」
『あ……はい…ありがとうございます』


手渡された目当ての本。
そしてそれを手渡してくれた人物は同じクラスの神童くんだった。
同い年で同じクラスなのになんとなく敬語が口から飛び出していた。

そういえば神童くんは時々図書室に来てるなぁと思いつつありがたく本を受け取る。


「苗字、いつも図書室にいるよな」

『うん。…神童くんもよく来てるよね』
「あぁ。ここは静かでいいからな」


私と同じこと考えている人もいるんだぁとちょっと嬉しさを感じる。
感動も感じつついればでも、と神童くんは口を開いて持っていた別の本でコツンと私の頭を叩いた。



「苗字に会いたいから来てたんだけどな」



そう言って笑う神童くんに徐々に顔が赤くなっていくのを感じる。
こんな時だけこの図書室が騒がしくなって欲しいと都合良くも思ってしまった。

そして神童くんが私に渡した本は恋愛ものだったことに気づくのは数分後の話。






静けさのラブロマンス

(明日から図書室に来る理由が変わっちゃいそうです)

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