自分を偽ることで自分を守ってきた。
俺は狩屋マサキであって狩屋マサキでない。
矛盾しているがこの表現が1番しっくりくる。


「おはよう狩屋!」
「あぁ、おはよう」


ニコリ。人当たりのいい笑みを浮かべれば人は寄ってくる。
馬鹿な奴ら。こんな奴らがすぐに騙されて痛い目を見るんだ。
俺は知ってるから。信頼と言うものが悲劇を、悲しみを産む事を。


『マサキくん、おはようっ!』
「あ、苗字さん。おはよう」
『今日も朝練頑張ってたね!お疲れ様』


肩に置かれた手から伝わる暖かさ。
手の平が暖かい人は心が冷たいなんて言うけど俺は苗字さんにはそれは通用しないものと思ってる。

苗字さんは太陽みたいな、俺とは正反対な存在だった。
裏表のない屈託の無い笑顔は誰もを魅力し、俺もその一人だと言う事は誰も知らない。
だが彼女の様な素直な人間が世の中痛い目を見る様になっている。

あぁ俺厄介な人間を好きになったもんだ。

冷たい俺の手の平。
彼女と違い俺は手も心も冷たい。

本当は今すぐにでも思いを伝えて、抱きしめて、俺だけのものにしたい。
でもそんな"本当の俺"を"俺は"まるでガラス越しに見ているような、他人事の様な気分にさえ陥る。
これが"俺"だと胸を張って言えたならどれだけよかっただろう。

踏み入れない、踏み入ることができない。
いや…正直に言えば踏み入れさせたくない、か。

結局俺は自分を偽る事で全てを完結させる。





全てはこの距離を保つ為。

君を好きでいる為に俺は自分を偽り続けるよ。






偽りを歌う道化

(だからせめて)
(君だけは闇を知らないで)

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