鶴正が引っ込み思案でネガティブでマイナス思考なのは知ってた。 ちょっとぐらいしゃきっとすればいいのに、と怒ったことも何度か。 鶴正は試合前になる地いつも試合の指示と結果を私に教えてくれている。 自分がちゃんと試合をしている時はちゃんと見て欲しいからって。 おどつきながらではあったけど、鶴正がそう言ってくれたときは素直に嬉しいと思った。 サッカーのことに関してはよくわからない私だったけど本当の自分を見せてくれようとしてるのがわかるから。 でも逆に負ける試合の時の落胆も大きかった。 選手にとっては神聖なフィールドであろうその場所で。 彼が全力で、本気で試合をしていないというのをまざまざと見せつけられたような気がする。 あんなにも鶴正がカッコイイって事を知ってるのに周りにはわからない。 それがどうしようもなくもどかしかった。 『次の試合、負けるの?』 「そうなんです、けど…」 『けど?』 「……神童くん達も先輩達も勝つ気でいるんです……」 最近鶴正がなかなか勝敗指示を教えてくれないのが気になってちょっと聞いてみた。 ホーリーロード決勝戦。 ここまで来るまでには大変だったとは聞いたけどまさか指示に逆らってたなんて。 ちょっとビックリしたけどなんだか納得してしまった。 だってそれが本来のサッカーだと思うし、皆にも全力で戦って欲しい。 「僕……どうしたらいいんでしょう……」 そうやってまたウジウジする鶴正。 もう…さっさと覚悟決めればいいのに。 私は背中をバシッと叩いて気合を入れたやった。 その会話をしたのは昨日の話。 観客席の一番前。 私は手すりに掴まりできるだけ体を前のめりにさせて鶴正を一瞬でも見逃さないように目を見開いて試合を観戦していた。 押され気味だった試合展開。 鶴正はまだ考えあぐねていたらしく周りと比べてもどこか浮いていたように見える。 このまま負けてしまうのかな、と思った時、その空気は変わった。 「ゼロヨン!」 久々に見た、鶴正の本気。 誰よりも速く、誰よりもカッコよく。 私の知ってるほんの一瞬しか見せない彼の顔。 試合の結果は、彼らの覆した勝利。 『鶴正っ!』 「え、名前!?」 試合が終わって、思わず私の口からは声が漏れていた。 まさかこんな近くで見られているとは思っていなかったのかちょっと鶴正が目を丸くしているのが伺える。 慌ててこっちに走ってくる鶴正。 私はそれを確認して、目の前の手すりに足をかけた。 誰よりもカッコいい貴方 (ちょ…!名前!?いきなり落ちてくるなんて危ないことしないでくださいよ!) (鶴正なら受け止めてくれるってわかってるもん!) ●● |