小学校の時は他人の持っているケータイを目をキラキラさせながら見ていた。
当時はどこか遠出をするときなどに連絡用にと親のものを借りたぐらいだ。
やっと許可が下りて買ってもらっ自分のケータイ。

『やったよ葵ちゃん!』

「これでいつでも電話もメールもできるわね!」
『うん!』

物凄い量のケータイストラップをつけた葵ちゃんに今度お揃いでストラップを買おうと約束した。
あれ以上増えて大丈夫かちょっと心配になったけどあそこまでくれば1つや2つ増えたって大丈夫かな、なんて思ってしまう。


『天馬も信介もメアド交換しよ!』
「オッケー!」
「赤外線で送っていい?」

『ほいっ!』


こんな些細な会話が妙に嬉しい。
アドレス帳に1つまた1つと増えていく友達の名前。
まだ片手で数えられるような数だけど憧れていた分嬉しさは倍増する。
部活の時先輩に聞いてみようとニコニコと(傍から見たらニヤニヤかもしれない)していたら、ふとよくケータイを弄っている彼のことを思い出した。
ついでに何かの因果か、丁度前方を歩いている雷門の制服じゃない学ランが見えた。



『剣城ー!』



3人の輪から一旦抜けて手を振りながら名前を呼べば凄く嫌そうな顔で振り返られる。
その手にはやっぱり赤いケータイ。


「なんだ」
『メアド交換しよ!』


瞬間眉間のシワが深くなった。
ぱたん、ち剣城のケータイの閉じる音。
(あ、その閉じ方かっこいい)


「お前に教える義理はない」

『いいじゃんか!やっとケータイ買って貰ったの!アドレス帳まだまだ寂しくって』
「あいつらと交換すればいいだろ」

『もうやった!だから教えて!』
「だから……『教えて!』
「だ…『教えて』
「…『教えて!!』
「何も言ってねぇぞ」
『細かいことは気にしない!』


じっと剣城を見つめ剣城が折れるのを待つ。
やっぱり無理かな、とちょっと諦めかけた時剣城の口からため息が漏れてケータイが開いた。


「やるならさっさと送れ」


パァっと自分でも舞い上がるのがわかる。
(軽くダメ元の気でぶつかってたから尚更)
自分のケータイを開いて赤外線へ。


『……あ、あれ?送信するのってどれだろ』

「は?」


さっきまでは天馬たちとは受信して交換したから送信はどうするかがわからない。
はやくしないと剣城とメアド交換できないまま置いてかれる…!


「ったく、貸せ」
『あっ!』


私の手からケータイをひったくって慣れた手つきで剣城がケータイを操作していく。
…他人ケータイの操作もできるんだ…!
2つのケータイを向かい合わせている剣城の姿は言ったら絶対怒られるだろうけどなんか……かわいい。

早々と交換を終えて突っ返された私のケータイ。
私のは送っただけだからまだアドレス帳に剣城の名前はない。
数票後まだ登録していないアドレスからメールが届き受信画面を開く。
件名も何もない本文には"剣城京介"の文字だけが打ち込まれていた。



『もうちょっと愛想良くすばいいのに』

「余計なお世話だ」



そうは言いつつもちゃんと交換してくれる剣城は実は優しいってことを私は知ってる。

私はまだ拙い指使いで今届いたアドレスを登録する。
そして新規メールを作成して隣の彼へ初めてのメールを打ち始めた。





ぶっきらぼう初メール
(ねぇなんで電話番号は教えてくれないの?)
(お前に教えたら常時かかってきそうだからだ)


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