重くのしかかるプレッシャー。 目の前にある"進路希望調査書"が私にため息を付かせる。 『…進路…かぁ』 私は特に目立った特技もなく、親も普通のサラリーマンに専業主婦だ。 親は行きたい高校に行けと言うけれど生憎私はやりたいこともなりたい職業もない。 それに、お金のかかる私学を選ぶとしたらなんとなく忍びない気持ちになる。 どうしよう、と1枚の紙切れに頭を悩ませる私。 才能もやりたい事も将来の夢もある人は羨ましいと素直に思う。 私の頭の出来から考えて選べる高校は決まってきてしまう。 まさに中の中と言った成績の域にいる私は激戦区を勝ち抜かなければいけなくなるだろう。 頭のいい人同士の戦いよりはありふれている分よほど競争率が高いんじゃないかと思う。 かと言ってレベルの低い所には行きたくないというのも事実。 今時本当に世間はシビアな世界。 (甘いことなんか言ってられないよね) 成績もそこそこ、噂によると良いと言われている高校をとりあえず希望に書いてみた。 保身してるなぁと我ながら思ったけど、とにかく。 「ふーん。名前あそこ行くんだ」 『あっ!!』 私の手元からヒラリと消えた調査書。 『ちょっ!返してよ南沢!』 「いいだろ。減るもんじゃねーし」 隣の席の南沢の手に収まっている紙を見て慌てて返却を求めるもこの人に言っても無駄だったらしくしっかり見られてしまった。 南沢の言う通り減るものではないけれどこういうものを見られるのはなんか嫌だ。 一通り紙を読み通してから紙が戻ってくる。 『…南沢はどこ行くの?』 私の進路を見ても何も言わないし、表面上優等生な南沢はきっと私なんかより上なんだろうけど。 「俺?」 『そう』 「ほらよ」 私と同じ紙の筈なのになんだろう。 他人のものだというだけで全然重みが違う。 そして予想通りと言えば予想通り、南沢の希望する高校は私より上だった。 『…でも意外。南沢もっと上だと思ってた』 サッカー部のエースで勉強もできる南沢は上の激戦区にでもいけそうなのに。 「俺はスマートに行きたいんだよ」 『あー…はいはい』 不要な戦いは避けたいのであろう南沢。 まぁ当然といえば当然だろうけどそれをサラリと言うのが南沢の長所であり短所な気がする。 「名前もまだ上いけるだろ。俺のとこも行けんじゃね?」 『えぇ!?ちょっと飛びすぎじゃない?』 「そうでもねーよ」 そう言って南沢がまっさらなルーズリーフを取り出してそれに文字やら数字やらを書き始める。 高校の偏差値、成績についてを男にしては(腹立たしい程)綺麗な字で書き連ねていき、その説明をしてくれた。 この時点で私の方が高校についての知識がないことが丸分かりなのだが皮肉にも南沢の説明はわかりやすかった。 「ってな訳で名前でも十分狙える範囲」 『おぉ……』 ちょっと自分の可能性が広がった気がする。 凄いなぁと思った矢先また南沢が紙になにかをー………って! 『それ私の!なに勝手に書き直してんの!』 「…これで良し」 『もー!返して!』 書き直さないと、と修正テープを取り出したとき、消す前に何を書いたか見てやろうと見た私の調査書の第一希望欄には南沢の希望する高校が書かれていた。 バッと髪から顔を上げて南沢を見ればいつも通りの余裕の笑みを浮かべられる。 「待っててやるから、俺追っかけて頑張ってみろよ」 ニヤリ、 もう…そんな風に言われたら頑張るしかないじゃん南沢のばか 進路希望調査書 (私の希望進路はあなたの隣です) ●● |