「マネージャー、タオル」
『はっ、はい!』

「ドリンク」
『はいっ!』

「腹減った。間食」
『はいぃぃぃぃ!!』


次々に出される仕事。
天河原中のマネージャーである名前はただ一人、西野空の静かな重圧を背に受けながら走り回っていた。


『なんで私だけなのぉ…!』


他にもマネージャーはいる筈なのに、何故か西野空は自分の周りの事は名前に頼むことが多い。
一度それを言ったら何か文句でも?とニヒルな笑みが返ってきた事も今でも忘れないだろう。

いじめだ、私西野空先輩にいじめられてるんだ…!

そう思わずにはいられないほどのこき使い具合に天河原中サッカー部全員が小さくため息をついたこともある。



「…西野空。また名前をパシッてるのか」
「人聞きの悪いこと言うなよ隼総。マネージャーに仕事を与えてやってるだけだろ?」
「…あそこまでやると可哀相だと思うが」

「あ、こけた」



洗濯籠・ドリンクの入った籠を片手に駆け回ってついにはこけてしまった名前を見て隼総の隣に立っていた喜多がため息をつく。


「これだから面白いんだよね」

「相変わらず悪趣味だな」
「そりゃどーも。褒め言葉さ」


クツクツと笑って名前の方へ歩いて行く西野空。
おそらくはこけた事に対してからかいの声をかけに行くのだろう。


「なんであんな名前に突っかかるんだ…?」
「鈍いな喜多」
「…?」

「好きな子ほど苛めたい年頃なんだよ、アイツ」


隼総の言葉に喜多はそう言う事かと思ったと同時によりにもよって西野空に好かれてしまった名前を可哀相に思った。








『いったたた……』


こけてぶちまけたタオルにボトル。
思いっきり前のめりにこけてしまったのでぶつけた所も数知れず。
西野空や他の部員に何か言われる前に辺りに散らばったそれを集めようと重い腰を上げようとした時、日向にいる自分に差す筈のない影が差した。



『に、西野空先輩…!』
「なーにやってんだよ。相変わらずドジだな」

『うぅ…!』


返す言葉もなく羞恥もあって下を向けば不意に差し出された手が映る。


『へ?』

「…折角俺が手貸してやってるんだから掴めよ」
『ふぇ、あ、はいぃぃ!』

「ったく」
『わっ!』


手を重ねれば予想以上に強い力で体を引かれ、今度は立ち上がった勢いでそのまま西野空の体へ突っ込むことになってしまった。
やばいと思ってすぐに体を離そうとしたものの、その体は離れない。
西野空の手が 名前の体をガッチリとホールドしていた。



『あの、西野空先輩?』

「…ドジ」



何度も何度も言われた言葉だったけど、西野空の丸みを帯びたその声に今度は嫌な気は感じなかった。





私と彼の絶対的関係

(じゃ、後はちゃんと片付けときなよ)
(え、手伝ってくれないんですか?)
(…誰が手伝うなんて言った?)

(ごごご、ごめんなさい…!)



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