最近倉間くんは生き生きしている。
いや、倉間くんだけじゃない。
前までどこか暗い雰囲気だったサッカー部の皆は明るくなった。

練習も楽しそうにしているし、1年の頃から密かに倉間くんを応援していた私としては嬉しい。

でも私には山菜さんみたいにマネージャーになるほどの行動力はない。
1年生からずっとサッカー部の練習を見ているだけ。
それでもこうしてちょっとの変化に気付けたことがちょっと嬉しくて。


『楽しそう』


グランドを駆ける皆を見つめてポツリと呟いた。


「なにが?」
『ひゃぁ!?く、く、倉間くん!』

「…そんな驚くなよ」
『ご、ごめん』


突然の事に抱えていたバックを思いっきり抱き締めて振り返ると、そこにいたのはタオルを首にかけた倉間くん。
タオル濡れているところを見ると、多分水道に濡らしに行ってたんだと思う。
まさか声をかけられるとは思ってなくて思わずどもってしまった。

しかも1人言聞かれたし…!
あ…でも何がって言ってたし聞かれてない?かも…?
…どの道恥ずかしい…!


「で、何が楽しそうなんだ?」


や、やっぱり聞かれてた…!


『その……サッカー部の皆、が…。最近楽しそうにサッカーしてるなって』

「!」
『?』


ちょっと驚いた表情の倉間くん。


『あ、気の所為だったらごめんね!私が勝手に…!』
「謝んなくていいって。ちょっと吃驚しただけだからよ」


…?なんだろう、倉間くんがちょっと赤くなった気がした。
濡れたタオルで頭をガシガシと掻き乱してもう一回顔を上げる。



「……そう言うのって分かるもんか?」
『そういうの?』

「…俺らが楽しそうっての」

『うーん…ずっと見てたからかな。分かるよ』



なんだか倉間くんが可愛くて自然と笑みが漏れた。
でも言った後に私がもの凄い恥ずかしい事を言っているのに気付いてちょっと俯き気味になる。

ぁぁぁ倉間くん引かないで欲しいな…!

顔を上げられなくて顔を隠すように鞄を抱き締めてたら不意に頭を襲う温かみ。



「じゃあ、次は俺だけ見てろよな」

『え?…っわ、』



パッと顔を上げると視界を覆う白。
ヒンヤリとした冷たさに、これがタオルだと気付いて手に取った時、倉間くんはもう私の横を通り過ぎてグランドに走って行っていた。



「お前の為にシュート決めてやるよ」



振り向いて不敵に微笑む倉間くんに、手に取った低温のタオルを顔に押し付けた。







うん、きゅんとした。


(こうしてまた君から目が離せなくなっていく)


本当にシュートを決めてしまった倉間くんが振り向いてもう一回ニヤリと笑う。
恥ずかしくって、でも嬉しくって、顔を真っ赤にしながら倉間くんにぶんぶんと手を振ってしまった。

_


- ナノ -