南沢の近所にあるケーキ屋。
この店には月に一度カップルDayと言うものが存在し、その概要はカップルで来ればケーキバイキングが半額と言うなかなか店泣かせな概要である。
甘いものには興味のない南沢だったが月に一度のその日。南沢はそのケーキ屋にの席に腰を下ろしていた。


「…よくそんなに食えるよな」


目の前に広がる見ているだけで吐き気のしそうな量のケーキ。
勿論食べているのは南沢ではない。


『だってバイキングだよ!月一なんだし食べなきゃ損損!』


次々とそのケーキにフォークを入れ、口に運んでいくのは南沢の恋人である名前だった。
もとからこのケーキ屋の常連であった名前が彼氏である南沢の家が近所だと知り、この月一のイベントに強制参加させられることになる。
最初は拒否していた南沢だったがついてこないと他の男と行くと言うもんだから行かざるを得なくなってしまった。

甘いものを好まない南沢にはムダ金を叩くことこの上ないのだがもう仕方ない。

間にも凄いスピードで腹に収まっていくケーキに最初は驚かされたがもう慣れている。



『篤志それ食べなら頂戴!』

「あぁ?やるよ」
『やりぃ!』


バイキングの始まる最初はオーダー制だったのでやむなく頼んだ1つのケーキを指差しその皿は名前の前へ移動する。
一緒にオーダーしたコーヒーを1口。
この店にそぐわないコーヒーの苦さにほっとする自分もいた。


『1つくらい食べたらいいのに。勿体ないよ?』

「んなこと言ったって名前が連れてきてんだろーが」
『まぁそうなんでけどね』


見ているだけで胸やけがしそうなクリームたっぷりのケーキを美味しそうに頬張りながら名前は首を傾げた。



『美味しいのにー』



相容れない甘党に思わずため息。
何がそんなに美味しいんだか、と名前の頬張っているミルクレープを1口分フォークで刺して自分の口に運ぶ。


「……甘っ」

『それが美味しいんじゃん!』


思わずコーヒーをケーキの上からかぶせて喉の奥に流し込んだ。
それでも口内に残る甘い味に眉を顰める。
逆に甘いオレンジジュースを口に含み名前は何故この美味しさが分からないのかと頭を悩ませる。



『勿体ないなぁこの美味しさが分からないなんて』



別にわからなくても生きていける。
だがそう言われるといらっとするもので。

南沢は席を立ち、ショーケースに入ったケーキを1つ持ち帰り用に箱に入れて貰う事にした。

席に戻って来たかと思えば名前の前に広がる皿が全て空であることを確認して名前の腕を引いて席を立たせる。



『ちょっと!まだケーキ…』
「家まで我慢しろ」



レジで2人分の会計を済ませ、南沢は名前の腕を引いたままケーキが溶けないよう早足で自宅へと向かうのだった。




ワンテイクケーキ

(ケーキと一緒にお前も持ち帰ってやるよ)



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