私は奏でられた音の一部だった。




『拓人…?ねぇ、嘘でしょ?』




目の前にいる筈の彼は何も言わない。
筈、と曖昧なのは私が目隠しをされているから。
意識が飛んで、いつの間に何処かわからない所に連れ出された。

他でもない、恋人である拓人に。


「嘘でも冗談でもないさ」


淡々とした言葉が逆に私の恐怖を煽る。
そっと頬に添えられた手はいつもと同じ拓人の手なのに私を襲うのは恐怖。

そのまま布越しに見えない瞼にキスをされた。

嬉しい、筈なのに。





「今日から名前は俺だけのもの」





まるで気に入ったおもちゃを誰にも取られたくない、と言った純粋な独占欲。
幼ければ可愛らしいで済むそれは一度思考を変えればただの狂気にしかならない。





「誰の目にも入れず」

「誰の耳にも聞こえず」

「誰の手にも触れず」



「俺だけに愛でられる」





体が震えているのがわかる。
それを包み込む様に抱きしめる拓人。

きっと拓人は今笑ってる。
私が見たこともないような表情で、笑っている。
暖かい両腕。首にかかるウェーブのかかった髪は確かに拓人なのに。






「これからはずっと一緒にいられる。俺の名前」






はらり、解き放たれた私の瞳が写したのは狂気を宿した獣の瞳。

私は捕まってしまった。
いや、きっと捕まる運命だった。
この計算高い彼に。
フィールドを支配する事の出来る彼が、私一人を支配する事なんてきっと何の苦もないのだろう。

そう。私は拓人の奏でる楽譜の上で踊らされていた音符の一部に過ぎない。

指揮者の思うようにしか動くことができない、そんなちっぽけな存在でしかなかったのだから。





「愛 し て る」








レッドカラーの指揮者

(振られたタクトは真っ赤に染まる)



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