小学校の頃は俺の方が背が高かった。
なのに中学になっていつの間にか苗字の身長はゆうに俺の背を抜かしてた。

なんか、男として女より背が低いっつーのがダサい気がする。
それが好きな女なら尚更の事。
格好がつかないとか、絵にならないとか言う以前に俺のプライドが許さねぇ。
今まで気にしたことなんてなかったのに"好きだ"と自覚した時に急に立ち込めた苛立ち。
あれは去年だったか、もうそんな事は覚えてない。
とにかく女ってのは自分より背の高い男が好きだと認識していた俺にはそれは絶望に近い出来事で。
確かに自分より背の低い奴と並んで歩きたくねぇよな、なんて速水よろしくネガティブになってみたり。
(お前の気持ちが分かった気がするから速水身長よこせ)
ため息をついて廊下を歩く。
俺の気持ちを知ってか知らずか外は大雨。
心なしか廊下の床が湿っている気がする。
言うなら馬鹿な男子なら走り回ってこけるレベルに。

思っていた矢先パタパタと聞こえて来る足音に少し意識を向けた。
騒がしくない様子を考えて女子だろう。
そして顔を上げた先にいたのは俺の思い人だった。

そういえば苗字は委員会で一種の雑用を任されていた気がする。
滑るなよ、念じ瞬間ズルッと嫌な音。


『きゃっ!?』
「っ!!」



―間に合え

延ばした腕で前のめりになった苗字の体を受け止める。
…タイミング悪いっての。
なんか俺が念じたから苗字が滑ったように思えて妙な罪悪感に襲われた。



「大丈夫か?」
『あ、うん!ありがとう倉間くん!』



体を離し、ザッと見やれば苗字に外傷はない。
やべぇ。近いと余計に身長差が明確になる。
何pだ…一体何p差があるって言うんだ畜生。

なぜか俺をきょとんとした顔で凝視している苗字と目線が合わず目が合わせにくい。



『倉間くんて、小さいけど逞しいんだね』

「…小さいは余計だ」



多分片手で苗字を支えたことを差していたんだろう。
苗字的には褒めたつもりだろうがそんなこと考えてたのか。
どうせ俺はチビだよコノヤロー。

眉間に皺が寄るのが分かった。
だがそんな眉間に人差し指を押し当て、背を屈めた苗字が俺に目線を合わせる。



『私はそういう人好きだよ?』



苗字の笑顔越しに見た外の雨降り模様の空にはいつの間にか晴れ間が差していた。






コンプレックスsky

(いつか俺がお前よりでかくなったら)
(言ってやるんだからな。"好きだ"って)

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