ボールを追いかけている貴方が大好きだった。
いっつも冷めた目をしている貴方がとっても輝いて見えた。

だから私はサッカーが好きになった。
そして






貴方を好きになったのに









「俺、退部します」








脆く心の中の何かが崩れ去って行く音がする。

南沢先輩。待って、行かないで。

口に出したくても何故だろう。声が出ないのは。
開いたまま塞がらない口から漏れるのは空気だけ。



嫌だ、こんな形で終わる貴方を見たくない。




『南沢先輩!』



去って行く背中を追いかけた。
気怠そうに振り向く先輩。
そうだ。私はこの人が本当にカッコよくサッカーをするのを知っている。
だからどうしようもなく惹かれた。

荒い息が整わない中、先輩は足を止めて"なんだよ"と一言。

あぁ去ろうとしていてもその態度は変わらないんですね。
その事に安心感と共に、どこか残念さを感じる自分がいる。



『やめちゃうんですか…?』
「だから言ったろ。俺はアイツらにはついてけねぇ」

『でもっ…!』



グッと言葉に詰まる。

先輩たちがどれ程頑張ってきたかは知っている。
1つ年下で、知らない事もあるかもしれないけど確かに私はあの努力を知っていた。

だから、せめでこの言葉だけは伝えたかった。





『私……サッカーをしてる先輩が好きです』



「……」

『先輩のおかげで、こんなにサッカーが好きになってこんなに沢山の事を知れました…。だから…!』




そこで私は言葉の続きをを紡ぐことが許されなくなった。

目の前に先輩の顔。
こんな近距離。それに塞がれた唇には暖かい感触。





私…キスされてる…?

思ったのは束の間。
すぐにそれは離れていった。いや、いってしまった。




「お前が好きなのは…サッカーをしてる俺、なんだろ?」
『あ…!』

「お前がサッカーを好きになった理由を俺に押し付けるな。お前がお前の意思で好きになったモンに他人を巻き込むな」




踵を返して去って行こうとする先輩を、私は追いかけることができなかった。









「俺はお前の事、好きだったぜ」







そんな過去形な思い、聞きたくはなかったのに。












去って行く背中に
(私は最後にさよならをした)
(バイバイ、私の初恋)


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