恋人なんて甘い響き、憧れたそれは薄っぺらいものだった。



「苗字、俺今日も部活だから」
『あ、うん…頑張ってね』



部活、そりゃ雷門はサッカーに関しては名門だし忙しいとは思う。
でもこう毎日部活漬けで普段もそっけないとふと自分って篤志にとってなんなんだろう。
篤志がサッパリした性格で、自分からイチャつかないししようともしない。
公認カップル、なんて嘘でも言えない。周りからはせいぜい南沢くんと仲いいんだね、程度。
しかも恋人なのに苗字呼び。
わかってても悲しい、かもしれない。悲しいのか何なのかすらもわからなくなる。
ただ胸のモヤモヤは募るばかりで。


グランドでサッカーをしてる篤志はカッコイイ。
私の前では決してしない楽しそうな顔でボールを追い駆けてる。

狡い。カッコイイじゃんか。

早く帰ろうと思ってたけど、篤志をずっと見てた。
だからかな、いつの間にか眠気に誘われてるのに気付かなかった。











「名前」


あれ、篤志の声だ。
でも篤志は私を苗字って呼ぶ筈なのにな。
じゃあ夢?
…夢なら覚めなきゃいいのに…。


「置いて帰るぞ名前」
『いたっ!!』


夢じゃなかった。痛い。


「起きたか」
『…え!?篤志!?』
「俺じゃなかったらなんなんだよ」
『だ、だって練習してたし、今名前って……』


寝ちゃったのは私だけど確かに篤志はグランドで練習してた。
多少目は悪くとも私の目はそこまでふし穴じゃない。


「名前が見てたから終わってこっち来たんだろ。」
『…名前』
「あぁ、言ってなかったか。騒がれるの嫌だから普段は苗字だって」



聞いてないよ馬鹿。



『そうだよね、篤志騒がれるの嫌そうだもんね』
「?」

『良かった』


なんだか名前を呼ばれただけだけどちゃんと愛されてる気がした。
そうだよ。私、篤志の性格はちゃんとわかってるんだから。


「まさか心配してたのか?苗字で呼ぶ事」
『………正直』


あ、ため息ついた。失礼な。




「俺がお前を放す訳ねーだろ」




ぎゅう、と抱きしめられた篤志の腕は温かくて、
悩んでたのが馬鹿みたいに思えた。

やっぱり、恋人っていいな








側にいる、ただそれだけ

(私の不安は消えていくの)


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