薄い一枚のレンズで隔たれた彼の世界。
どんな風に見えてるんだろう。
不思議になって鶴正の眼鏡をひょいっと奪ってみた。
止めた方がいいよと言う鶴正の制止を振り切ってそれを手に取る。
目の前にいる眼鏡をかけてない鶴正に違和感を覚えて、少し笑った。

大きいレンズの鶴正の眼鏡。
鶴正のトレードマークとも言えるそれをかけてみたらピントが合わずクラリと視界が歪んで目がチカチカした。
即座に眼鏡を遠ざけ瞬きをすると体の反射か涙が出る。
あぁ止めろってこういうことか。



『度、キツイね…』
「そりゃそうだよ。だから止めた方がって言ったのに」



眼鏡を鶴正に返し、目を擦る。
擦った後で思ったけどこんな時は擦るんじゃなくて目薬とかの方がいいんだっけ。


「どうしたの急に」


眼鏡をかけた元の鶴正。
やっぱりそっちの方がいいや。うん
私は鶴正の眼鏡を指差した。


『鶴正はいっつもレンズ越しの私しか見てないから、それってどんな感じなのかなと思って』


そう言うと鶴正は少し考え込む。



『悪いって言う訳じゃないけど、どうせならレンズ越しじゃない私を見て欲しい』



わがままだってわかってる。
でもそのままの私を見て欲しい。そんな欲がどこかにあるのも事実。
そんなこと言ったって、鶴正がちょっとさっきよりも難しい顔をした。
すると突然鶴正がパッと顔を上げる。


「いいこと考えた」
『?』


眼鏡を外して机に黄緑色のそれを置く。
やっぱり生まれる違和感に内心また笑った。



「じゃあこうしたらいいんだ」



鶴正の声と共に小さなリップ音。
私の頬に感じる柔らかい感触。
すぐ近くにある眼鏡をしていない鶴正の顔。


「これだけ近かったら、名前の顔だってちゃんと見えるよ」
『つ、鶴正!?』




私もレンズ越しの鶴正しか見てなかったんだね。

珍しく積極的な彼の表示は見たことがないぐらいカッコよかった。








隔たれた世界の中

(でもやっぱり君はカッコいいよ)

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