"まずは新品の消しゴムと緑色のペンを用意しましょう" "消しゴムのカバーを外して、消しゴムに緑のペンで好きな人の名前をフルネームで書きましょう" "カバーを付けて消しゴムの中身を誰にも見られないように使い切ったらその人と両思いになれるでしょう" 『"おまじない"……ねぇ』 校門の前で配られていたありきたりな塾の勧誘冊子。 駅前で配ってるチラシは割引券付きじゃないと絶対に貰わないタイプの私が一緒に入ってるペンやら消しゴムやら目当てでそれを受けとったけど、袋を開けてお目当てのものを取り出してみた所で昔読んだ事のある所謂"恋のおまじない"を思い出した。 取り出すことすらもなく綺麗なままの袋入りの冊子をごみ箱に捨て(皆同じ考えなのか冊子が綺麗に入っただけの袋が沢山あった)机に消しゴムとペンを並べる。 お誂え向きな事に私が貰った冊子の袋に入っていたペンは緑だった。 これは神が私にやれと告げていると言うことなのか。そうなのか。 「苗字も貰ったのか?」 『わぁっ!きっ霧野!?』 「…そんな驚くなよ」 後ろから急に聞こえた声。 振り返らなくたってわかる。だってその声の主は私が今消しゴムに名前を書くか否かで頭を悩ませていた人物だから。 「やっぱ貰うよな」 『まぁ中身見ないけどね』 霧野が持っている袋にも私と同じで緑のペンと消しゴムが入っている。 色が違ったら欲しい色同士で交換とかをするんだと思うけど、同じならばその物々交換は成り立たない。 霧野が隣の席についた時丁度チャイムが鳴る。 私は霧野が入ってきた先生を見やり、前に意識にやったことを横目で確認してカバーを取った消しゴムに緑のペンを滑らせた。 「ここのthatは関係代名詞であるからしてー……」 黒板に書かれた英語という名の異国語をノートに写す。 先生の話なんか聞いちゃいない。 だって聞かなくたってノートと教科書だけでそれなりにわかるし。 でも授業態度や提出物って結構でかいよね。そんな態度でノートを取っていると不意に自分の肘に落ちて例の消しゴムが転がった。 机の端から落ちていく消しゴム。 間に合うか、と地面に落ちる前に手を伸ばした。 ゴチン 『ー〜!!!』 「〜ッ!」 予想外の衝撃が頭(むしろおでこ)を襲った。痛い。 顔を上げれば私に並び声にならない痛みに悶絶している霧野。 床にあるのは二つの消しゴム。どうやら霧野も落としたようだ。 『ご、ごめん霧野…』 「こっちこそ悪い……」 小さな声で会話を交わし、お互いの足元にあった消しゴムを拾う。 危ない、危うく消しゴム霧野に拾われる所だった。 一応、と言うことで。 カバーをゆっくり外していくとそこには緑のペンで書かれた"霧野蘭丸"の文字。 …があるはずだった。 "苗字名前" 『え…?』 これ、私の消しゴムじゃない。 考えられるのは今さっきの出来事だけ。 まさかこの消しゴムー…!! 気付いたのは私と同じくカバーの外した消しゴムを見て目を見開く霧野と目があった時だった。 緑の恋まじない (使い切ってないのに叶っちゃったよ) _ |