『あ、剣城くんだ』


授業中を屋上で過ごす俺にそんな陽気な声で目の前に現れた女。
お前も授業をサボってるだとか何者だとかそんなことに興味はない。
ただなぜかよくこうして屋上にやって来るコイツは特に喋る訳でもない俺の横に座っていつも甘ったるい菓子やら飲み物やらを広げている。
風に流れてくる匂いが酷く甘ったるい。

『それでさ、古典の先生が訳わかんなくてねー』

一心不乱にそれを食べ続けながら俺に愚痴を言い出す。
相槌を何も打たない俺に話して何が楽しいんだか。
寝ようとしても隣でこう喋られ続けられていたら寝れるもんも寝れねぇ。
かと言ってここで俺が動くのも癇に障るから微動だにしないままシカトを決め込むことにした。


バリバリ ポリポリ


…次から次へとよく出てくるもんだ。
止まることのない手と口に一瞬の尊敬すらする。
今時の女っつーのは皆こんなモンなのか。



「太るぞ」



いつの間にか口から出た言葉に驚いたのは俺の方だった。
ピタリと手と口を止めた女はじっと俺の方を見てくる。


『やっと喋ってくれたね!まさかそんな事言われるとは思ってなかったけど!』


打って変わって嬉しそうな顔で(犬耳でも生えてんのかと思う)女はまた一つと菓子を手に取る。
言ってやったのにまだ食う気かコイツ。

『ストレスとかイライラには甘いものがいいんだよ』

いる?と差し出された物から目を反らし俺は目をつぶった。



『……えいっ』



しばらくの間。そして声と共に俺の口に入れられた異物。
何だと思って舌で転がしてみると口に広がる甘ったるい味。
体を起こして女を睨みつけてみたが全く動じずにヘラヘラと笑っている。


『飴玉だよ。剣城くん口寂しそうだし』
「いるなんて言ってねぇ」
『いらないとも言ってないでしょ?』


屁理屈を並べられて逆にため息も出ない。
面倒くせぇ。おせっかいな女だ。
それを言ってもコイツはやってくるんだろう、なんとなくそう思う。
口の中に甘ったるさを感じながら俺はやっぱり寝ることを決めた。





まどろむストロベリーキャンディ

(というか私2年生なんだけど?敬語ぐらい使いなさい)
(やなこった)
(…まぁいっか。あ、ポッキーいる?)

_


- ナノ -