大事な事程忘れてしまうのは私の性分で。
この前はよりによって怒りっぽい先生の宿題を忘れたし、ノートを一式家に置いてきた。
何で忘れるのってこっぴどくしかられるもののその存在を忘れるものから忘れるんです先生。

自業自得で怒られるならまだいい。
でも…忘れてきた私が悪いからってこれは酷くないか神様。








ザァァァァァ


表現するならホントにザァァァァァなんだけど実際そんな可愛い音じゃない。
それに風が加わって物凄い風音だし空は真っ暗。
そして私の手には学校の鞄のみ。

こんな時に必要な肝心なもの。"か"で始まった"さ"で終わるものが私の手元にはない。
ああああれだ玄関に置いてきたんだ…!
昨日から午後は雨って分かってたから先に玄関に出しといたのにそれを忘れてきたよ私の馬鹿!
酷い。こんな日に限って(いやこんな日だからか)普段いっぱいある置き傘が見当たらないし鞄の中は明日までにやらなきゃいけない予習の教科書ノートにプリントの嵐。
嵐なんて今の天気だけで十分なものだけど置いていく訳にもいかず。

どの道私はこの豪雨の中を鞄を死守しつつ帰らなければならない。
なんて酷な試練なんだチクショー。


「苗字?」
『ふぁいっ!?』


ぎゃぁぁ変な声出た!
帰って風呂に駆け込んだらなんとか風邪は引かないだろうと校舎から飛び出そうとした時不意に呼ばれた名前にホントに恥ずかしい声が漏れてしまった。


「ふぁいって…どんだけビックリしたんだよ」
『き、霧野くん!!』


更に恥ずかしさ倍増。
なんと私の背後に立っていたのはクラスメイトの霧野くんだった。

…今ならこの豪雨に飛び込んでも構わない!


「苗字、お前今日は傘忘れたのか?」
『……お恥ずかしながら…』
「だろうと思った。んじゃコレ」


ホイと渡されたのは一本の傘。
可愛い容姿に合わない男物の傘はどう考えても霧野くんのものだろう。


「ちなみに、置き傘してるの忘れてて持ってきた分だから別に気にしなくていいぞ」


考えを先に読まれたのか霧野くんは逆の手に持っていたもう一本の傘を私に見せた。
わ、私考えてることわかりやすかったかな…!
それにしても同じ"忘れる"でもこんなプラスになるなんて忘れ物が多い身として恥ずかしい。さっきと違う意味で。


『ほ、ホントにいいの…?』
「別にいいって」


宥めるように頭を撫でられる。
…私霧野くんに子供扱いされてる?


『ちょ、霧野くん髪が…!』





「また明日にでも返してくれればいいからさ」





笑う霧野くんが辺りの薄暗さを感じさせないぐらい明るくて。
じゃ、と駆けて行った霧野くんの背中を見つめたまま渡された傘をギュッと抱きしめ、私は明日絶対にこの傘を忘れずに持ってこようと誓った。




忘れ物には福きたる

(霧野くんっ!これ…!)
(今日は忘れなかったんだな)
(…じ、実は今日は筆箱忘れたんだけどね……)

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