初めての制服を身に纏い、ワクワクしながら初めて校門を潜る。
新しい友達を作ってお昼は皆でお弁当。
難しくなるであろう勉強も赤点回避を目指し、楽しい学校生活を送る。

それが私が中学生活に求める些細な幸せだった。

なんで過去形かって?
…それはもう私に平穏は訪れないという事。





新入生の私でも入学式前にサッカー部で一悶着あったことは知っている。
と言うか新入生でも知らない人の方が少ないんじゃないかと思うけど、とにかく殆どの人が知ってるだろう。
私達と同じ新入生にして問題の中心、剣城京介。
圧倒的な力であの雷門サッカー部を一蹴してしまった見かけからまんまの不良(だと思う)。
まぁ正直サッカーなんてただの球蹴りだと思っているし、平々凡々な一般人である私には一生無関係だろうと思っていた。



始業式を終え割り振られたクラスで担任やクラスメイトと顔合わせ。
担任も優しそうだしクラスメイトも皆優しそうだし面白そうだった。
ただ一人、始業式にも顔合わせにもやって来なかった私の隣の席に当たる人物―剣城京介を除いて。


『と言っても剣城くんだって同じ新入生だしねー…ビクビクする事もないか……』


顔合わせも終わり、休み時間に入った所で私は学校内散策に歩を進ませることにした。
これからの学校生活にあたって剣城くんの事を考えていたもののそんな考えに至り、次の曲がり角を曲がった時不意に衝撃が襲う。どうやら誰かにぶつかったようだ。



「俺をその辺の凡人と一緒にするとはいい度胸だな」



ごめんなさいと口を開く前に降ってきたのは予想外な人物からの予想外の言葉。
パッとピントを合わせればそこに立っていたのは先程まで思考のど真ん中にいた剣城くんだった。


『凡人と一緒って…だってただ球蹴りが得意なだけでしょ?私と変わらない一般人。
確かに剣城くんはサッカーが上手いけど人の価値はそんなものだけじゃ決まらないと思うよ』


普通の女子なら泣きながら逃げていくのかな、とか思う顔で私を睨む剣城くんだけど特に臆することもない。
確かに常識から掛け離れた存在ではあるが所詮は彼もただの中学生だ。
一瞬目を見開いた剣城くんは次の瞬間ニヤリと笑った。


「おもしれぇじゃねぇか…この俺を一般人扱いとは……」


あ、何だろう嫌な予感がする。

『わっ!?』

思った瞬間私は剣城くんにまるで米俵の様に担ぎ上げられていた。
ちょ、私重い!重いから!


「面白ぇ。しばらく俺に付き合って貰おうじゃねーの」


あ、私の平穏終わった。
こうして私の思い描いていた日常は非日常へと変わっていく。




常識が非常識になる時

(お前名前は?)
(…苗字名前……)


_


- ナノ -