小さい頃から一緒にいて、俺が泣き虫だった事もバレている仲で。
隣の家である名前の家からは俺の部屋と名前の部屋が行き来できる。
中学2年生になった今でも時に名前は俺の部屋にやってくる。

名前は気付いていない。
俺が名前をどれだけ好きかと言う事を。
…俺がどれだけその度に理性を抑えるのに必死になっているかと言う事を。


『やっほーたっくん!』


そして急にやって来るのも正直やめて欲しい。
(あれは相当心臓に悪い)
と思いつつも窓のカギを開けておく俺も甘いと思う。

「今日は何だ?」
『数学ー!』

最近は主に勉強を教えることが多くなったが基本的に用事がなくてもやって来る。
なぜ名前の所のおばさんは娘が男の部屋に行くことを許可しているのが不思議で仕方がない。
長い付き合いで信頼されているのか俺が男として見られていないのか…前者ならまだしも後者なら素直に嬉しくないぞ。

「ここはこの公式にxを代入して…」
『あ!わかったそれでy出すんだ!』
「正解」

机の上に広げられた教科書やノートは役目を終えると閉じられていく。
「んー」と名前は伸びをして一言。「喉乾いた」
…俺は執事か何かか。
つくづく甘いを思うが下に降りて冷蔵庫を開ける。
名前用に常にオレンジジュースをキープしてあるのは秘密。
コップに注いだそれを盆に乗せて部屋へ戻るが部屋が妙に静かだ。
いつもなら疲れただの早くだのブーブー言ってる筈だが部屋からは何も聞こえてこない。


「名前―――っ!?」

ガチャン


危うくジュースを落とす所だった。
我ながらよく耐えたと思う。


『スー……』


人のベット(しかも幼馴染とはいえ男のベット)でこんな無防備に寝るなよ……。
短いスカートから覗く足に思わず目がいくが何とか視線を反らす。
名前を起こさないようにゆっくりと盆を置いて気持ちよさそうに眠る名前へ改めて視線を向けた。

昔から知っている名前の筈なのに。
今ここにいるのは紛れもない「女」の姿の名前。
ギシリと音を立てるベットが妙に艶めかしい。


『ん…たっくん?』


俺がベットに座った音に反応して名前が目を覚ます。
寝ちゃってた、と欠伸を噛み殺しながらはにかむ名前だったがその服は先程より乱れている
気が気じゃないこの状態。
やめろ、やめろ、落ち着け 俺


『昔はよく一緒に寝てたよね〜』
「……そうだな」

『ね、たっくんも一緒に寝る?』


もう駄目だ



ドサ

『きゃっ!』
「…ずっと俺がいつまでも昔のままだと思うなよ」


押し倒した名前の唇に自分の唇を押し付ける。
じたばたと俺の下で抵抗を見せていた名前だったが、しばらく口を塞いでいると苦しさからか抵抗もなくなってきた。
空気を求めて薄く開いた唇に舌を捩じ込み、逃げるそれを絡め取る。

『んっ…ふ、ぁ』

熱の籠った吐息が、ベットに広がった髪が、潤んだ瞳が、すべてが俺をおかしくさせる。


「っは、」
『ぷはぁっ…た、…くん?』


唇を離せば肩で息をする姿にドクリと脈を打つ俺の胸。
潤んだ瞳で俺を見つめる名前に、口端を上げた俺はもう一度キスを落とした。




さよなら俺の理性

(もう昔と一緒なんかじゃないって分からせてやるから覚悟しろよ)



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