小さい頃、女の子が一度は憧れる絵本の中のお姫様。

成長するにつれそんなもの非現実的だと頭では理解するものの、心のどこかでそんな物語を探している自分がいる。
おとぎ話の主人公は私達の様な一般人。
あえて言うなら、私からは掛け離れたぐらい容姿が美しいという特徴を持った人。
そんなシンデレラストーリーは一般人の中から生まれるべきだ。
確かに私は綺麗なサラサラロングヘアという訳でもなく、男の人が振り返る様なナイスバディをしている訳でもない。

本当に何の特徴もない一般人なわけです。

別に私は白馬に乗った王子様に迎えに来てもらいんじゃなくて、ただそんな絵本みたいなドキドキを味わってみたい、そんな些細な好奇心があるだけ。
昔友達にいったら絶対ないと呆れられたけど。
夢ぐらい見たっていいじゃないかと思う。


朝寝坊して、パンをくわえて走ってたら曲がり角で美形とぶつかって二人は…なんて現実ではありえないシチュエーションだからこそ憧れるものだ。



『いないかなぁ私の王子様』



現実に帰れば、私が着ているのはドレスなんかじゃない制服。
持っているのは意地悪な継母に持たされた箒じゃなくて教科書。

夢もロマンのかけらもない。


「ほら名前、前見てないと転ぶぞ」
『だーいじょうぶだって水鳥ちゃん。いくら私がベタな事好きって言っても流石に階段で足滑らせたりなんか……』

ズリッ

『え』



嫌な音と共に視界が歪む。

私階段で足滑らせたんだと理解した時には既に反射的にか目をつぶっていた。
人間て凄いね。本人が自覚してなくても防衛本能がちゃんと働くんだから。
痛みを覚悟してからの時間は妙に長く感じる。
悠長に考えてたけどもうそろそろダメだと思った時、感じたのは痛みではなく温もり。


「大丈夫か?」


同時に振ってきた温かい声。
そしてゆっくり目を開けていく。


『王子様…!』
「?」


綺麗な顔立ち、ウェーブのかかった髪、ドラマチックなシチュエーション。

気をつけろよとこれまた優しい動作で見かけによらない逞しい腕から下ろされれば、階段から水鳥ちゃんが下りてきた。
向いてる視線の先は私の命の恩人もとい王子様


「神童ナイスキャッチ」
『み、水鳥ちゃんのお知り合いなの!?』
「ん?あぁ、こいつサッカー部のキャプテンで神童拓人ってんだ」


王子様を呼び捨てだなんて恐れ多い!

『拓人様!』
「さ、様…?」


私は息を吸い込んで、拓人様の手を取りここが廊下であることも忘れて叫んだ。
それは私が望んでいた絵本みたいな物語の始まり。




私の王子様になってください!

(…すまない状況がよく分からないんだが)
(いいじゃん神童。あ、いや王子様か)

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