ぼーっと窓外を見ている中、視界の端に差した陰に南沢はフッと顔を上げた。

「名前か」
『篤志。どーしたの、グランドなんて見つめちゃって』

外を見ていた、ではなくグランドを見ていたと悟られている辺り何を考えていたのかはもうバレているのだろう。

「別に」

かと言ってそれをわざわざ伝える義務もない。
南沢が再び窓の外を見、名前がムッと頬を膨らませる。
でも名前側も南沢の性格を掌握している為とやかく言う事もなく、おそらく南沢が見つめているであろう方へ顔を向けた。

『篤志はサッカー、好き?』

視線の先――ゴミ箱の中に入ったサッカーボール。
先日、剣城によってそこに収められてしまった、彼らにとってはかけがえの無いハズのもの。
名前の言葉に一瞬動揺を見せた南沢だったが、それを顔に出すことはなかった。
名前ががそれを読み取ったかは定かではなく、名前も顔に出すことはなかった。

「…さぁな、わかんねぇ」
『何それ、サッカー部のくせに』

緩く南沢の背中を叩く。
動くことのない背中に名前は無性に抱き着きたくなった。
「えいっ」と少し勢いをつけて飛び付けば「うおっ」と前のめりになる自分よりも大きな体。


「何すんだよ名前」
『もー。ダメだよ篤志、後輩の悩みの種になっちゃ』

「……神童の事か?」


頭に浮かぶは1人の後輩。
主将という責任を押し付けてしまい申し訳なくは思っているもののどうしようもないこの現状で自分にどうしろと言うのだ。



「名前には関係ないだろ」



口から出たのは薄っぺらい言葉。
そうして彼女を遠ざけて自分の気持ちを楽にしているだけかもしれない。
南沢は目線を下に落とす。
そんなことを言いたいんじゃないのに口から出るのは違うもので、素直になれない自分を時に殴ってやりたくもなる。


『関係なくないよ』


首に回された腕に力が入るのが分かった。
何事かと体を名前の方へ向けた時、南沢の頬に柔らかい感触。


『だって、私はサッカーを楽しんでる篤志が好きなんだもん』


それは天然彼女の殺し文句。




抱きしめてダーリン

(…お前も小悪魔だな)
(……?篤志??)

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