『オイ女男』
「なんだよ男女」


そう言っていがみ合う二人の容姿は正反対だった。
女みたいな男に、男みたいな女。
霧野蘭丸に苗字名前
端から見たら何だと言われる光景だが、辺りはもう慣れたように視界をシャットアウトしている。
二人に挟まれた拓人がため息を付くが、それにすら気付かない程放たれた負のオーラ。


『誰が男だこの男の娘が』
「煩い。だいたい名前はそんな口が悪くてよく自分が女だって言えるな」
『私が女で悪いか』


段々と増して来る黒い雰囲気に拓人はもう一回ため息をついて「先行くぞ」と早足に教室を出て行った。
その話を聞いていたのか聞いていなかったのか定かではないが、そんな事お構い無しと言った様子でいがみ合いを続ける。
拓人がいなくなった今、この争いを止めようという勇者的な存在はいない。
仲の悪い二人のみの最悪のパーティーメンツになってしまったこの状況を打破する攻略法などあるはずもなく。


「昔は随分と可愛かったのにな」
『煩い。蘭丸に言われたら嫌みに聞こえる』
「は?」


そっぽを向いたと思いきや少しふて腐れた表情で顔を少し赤らめている。
疑問符を浮かべたまま名前を見つめていると名前は蘭丸に聞こえるか聞こえないかの小声で語り出した。



『昔から蘭丸の方が可愛いって言われるから…惨めだった。
だからどうせならかっこよくなってやろうって思って……でも結局はただの可愛くない奴になるだけ』



いつもいがみ合ってる時からは考えられない愁いの表情を見るのはいつぶりだろうか。
幼い頃から一緒にいる故の悩み。
言えば楽にもなっただろうに言わなかったのは彼女の性格がそうさせなかったからだろう。

「…十分お前は可愛いよ」
『え?』
「何でもない」

蘭丸の呟いた言葉は静かに掻き消されそれよりと言わんばかりに名前に突き立てた指を向ける。

「名前、お前俺の事可愛いって言うのか」
『……だって私から見ても可愛いし』

長いため息が口から漏れる。
男だと言っとろーにコイツと思いつつも声には出さずじゃあ、と名前の手を取り己の唇を触れさせた。



「そんな事思わなくなるぐらい俺に惚れさせてやるよ」




オトコノコ♂オンナノコ♀

(なっ…ら、蘭丸っ)
(もう可愛いなんて言わせないからな)

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