ひっそりとした廊下に誰もいないことを確認する為左右確認をする怪しい人影、私。
抜き足差し足忍び足、とまではいかなくとも自分の中では精一杯音を立てずに誰もいないと思われる廊下を歩く。

ミッションインポッシブル。大丈夫私はできる子私はできる子…!

自己暗示を胸に向かう靴箱。
このミッションは誰にも姿を見られずにこなさなければならない。
なぜならこの行動には私の恋がかかっているから…!


誰にも見つからないように好きな人の靴を履いて3歩歩く


これが今回の目的であり、所謂ただのおまじないと言うやつ。
くだらないと思われるかもしれないが私にとっては重大な事だ。
なんせ私の友達達はことごとくこのおまじないで彼氏をゲットしているのだから…!
これを機に勇気がでるかもしれないし何もやらないよりかは何かをしたい。

とにかく無事靴箱に到着。
ターゲットの靴箱はリサーチ済み。

…行ける。

最終確認に前後左右を見渡す。
廊下の端までしっかり誰もいないことを確認してまた一歩一歩目標に近づいていった。


『えっと…確かこの段に…』


出席番号順になっている靴箱の並びを順番に確かめていく。
思い人の頭文字は"き"
出席番号は結構速い方だ。

私の靴箱からは結構離れているから私が自分の靴目的でここに来ていないことはある意味バレバレ。
ミッションは早く遂行しないと…!
頭文字の"き"…霧野と書かれた上靴を手に取って深呼吸をした。

ゆっくりと地面に上履きを置く。
自分の上靴を脱いで思わず身構え、ごくりと息を飲んで片足を上げた。
その足を霧野くんの上履きへ。
見ただけで霧野くんの方が足が大きいのがわかる。
あの可愛い顔からはわからないけれどやっぱり霧野くんも男の子。

サイズが大きい霧野くんの上履きに右足を入れた。


『ぶかぶかだぁ…』


片足を履いてみただけでも違和感がある。
一歩歩くだけで脱げてしまいそう。
もう片方も履いてとりあえず一息。

さぁ、これからが問題だ。


『あとは…これで3歩歩くだけ…』
「苗字?」
『はいいぃいぃいぃいい!!!!!』


まさかの名指しに大声が上がる。
そして運の悪いことに、私はその声の主を知っている。


『き、…霧野くん……』


顔が真っ青に染まっていくのが自分でもわかる。


「それ、俺の…だよな?」
『こっ、これはおまじないってやつで…!決して変態的な意味ではなくってですね…!』
「おまじない?」


本人に現場を目撃されるなんて思ってなかったからもうヤケになって おまじないの詳細を話すことにした。
バレた時点で私の思いなんてあってないようなもの。
曝け出された私の思い、こんな風に伝えるはずじゃなかったのに。

完全に目を合わせることができなくなった私。
霧野くんがどんな顔をしてるかもわからない。


「……残念だな」
『!』


完全に嫌われた。
ぎゅっと目を瞑った時、予想外に霧野くんの手は私の頭に優しい振ってくる。



「…俺の足だと苗字の靴に足が入らないからな」
『え?』

「そのおまじないってやつはできないけど、俺の彼女にならなってくれるか?」



ミッションなんてどうでもよくなってしまった。
だってそのミッションはまさかの階段飛ばしで最終ミッションをクリアしてしまうことになったのだから。

履いていた霧野くんの上靴でちょっとグラつきながら差し出された霧野くんの手を取りに行く。
脱げてしまいそうになった霧野くんの靴。


でも私はシンデレラみたいにこの靴で彼に私を探してもらうなんてまどろっこしいことはしなくていいの。





ミッションコンプリート

(霧野くん…そういえばどうしてユニフォーム…?)
(いや、ただ忘れ物取りに来ただけなんだけど…寄り道はするもんだな)

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