受験生の私に、家庭教師なんてシャレたものを用意する気は親も私自身も毛頭なかった。
私は一人で勉強する方が好きだし、何より横槍がない分集中できる。
ただし。


「お前…そこは電流じゃなくて電圧だから単位はAじゃなくてVだろ」
『あ…!うわ凡ミスー…』
「残念でした」


この隣の家の篤志を除いての話だが。
昔から一緒に勉強してた私たちはその勉強スタイルが型についてしまった。
お互いの部屋を窓から行き来し、どちらからともなく勉強をする。
受験勉強も例外ではない。

学年でも悪くない成績を残す篤志に、毎度毎度それに少し及ばない私。
得意科目苦手科目などでもなんやかんやで釣り合いのとれている私たちの勉強会は自然とはかどった。

時間を経つのも忘れて勉強をしてたらいつの間にか時計の針の短針は7を指していた。


『んー……うわ、もうこんな時間…。篤志晩御飯どうする?食べてく?』
「あー……遠慮する。お前、明日受験なんだろ?」
『な、なんで知ってるの?!学校と受験日黙ってたのに…』
「おばさんに聞いた」
『もーお母さんってば…』


互いにガサ入れはなしだって言ったのにまさか第3者にバラされることになるとは。しかも身内に。


『大丈夫だって!過去問もバッチリ解いたし落ち着いてやれば…』
「落ち着けなくてさっきみたいな凡ミスしたりしてな」

『う……』


図星と言えば図星。
明日の受験に緊張しているのは紛れもない事実なのだから。
現にさっきだって言われた通りめったにしない凡ミスをしていた。

凡ミスであっても受験では勿論命取りになる。
わかっていてても受験の緊張というのは一筋縄には解くことはできない。


『…頑張る、もん』


そうじゃなければ今までの努力が水の泡になる。
すると篤志はしばらく私を見た後、ごそごそと自分の筆箱を漁り出した。

手元を覗き込もうとも、篤志の行動はただ筆箱を漁っているだけ。

テキストに書き忘れてもあったのかなぁとも思ったけど篤志の完璧なテキストには空白など見当たらず。
筆箱を漁る意味が私には分からず首を傾げていると唐突に篤志が顔を上げて、私に何かをズイっと差し出した。


「ほらお守り」
『…篤志の、シャーペン?』

「これで大丈夫だろ?」
『でも…』


差し出されたシャーペンをギュッと握り締め、既に緊張をしている胸に押し当てる。
篤志は大丈夫だと根拠のない自信の言葉を私に押し、そのまま私の頭を撫でた。



「お前の努力は俺がよく知ってる。お前の隣には俺がいるから、頑張ってこい」

『…うん』



手の平の心地よい熱にほだされて。
根拠のない自信に勇気づけられるなんて。

でも、それでもいいかと思う辺り私もまだまだ子供だなと思ってしまうのだ。





努力が実る果て

(篤志の番には私が"お守り"渡すから)
(だから明日はまず、私が頑張る番)

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