※南沢はずっと雷門生徒







もう今日は卒業式。
この前入学したと思えば過ぎ去っていく時間は刹那。

あっという間にやって来て、制服の胸元に安全ピンで留められたリボンの花に少し時間の経過を驚かされる。

桜舞い散る季節に入学した私は、まだ桜の蕾すら見え隠れする様な時期に卒業する。
なんて矛盾なんだろうと思いながらもそういうものなのだから仕方がない。
私は今日、この雷門中学を卒業します。


「名前センパイ!」
『倉間くん?どうしたの、わざわざこんな所まで』


こんな所、私は校庭の端にある大きな桜の花が舞い散るのを見るのが好きだった。
春先は毎年よくここに来ては桜吹雪を浴びていたもの。
それも見納めなのに、残念ながら桜は咲いてはいない。

桜の咲いていない、大きな桜の木の下で私は感傷に浸っていた訳だけど、その孤独を破ったのは部活の後輩の倉間くんだった。

サッカー部のマネージャーだった私。
倉間くんは今時珍しい、自分のことを自分でしっかりとできる優秀な後輩だったと思う。
部活中はあまり構ったことのなかった倉間くんが、今私の目の前にいる。
てっきり倉間くんは同じFWとして慕ってた南沢くんの所にいると思ったのにな。


「…卒業、おめでとうございます」

『ありがとう!でも…もう部活に来れなくなると思うと寂しくなるなぁ』


円柱の黒い筒に入った卒業証書を抱きしめたままこの3年間を振り返ってみた。
駆け巡る思い出はもう思い出しきれない程だけれど、部活の思い出というのは学校生活の中では何か別格のものを感じる。

熱いフィールド内を駆け回る皆を支えていると言う実感が湧くのが凄く好きだった。
だからこそこの生活を手放すというのはとても名残惜しい。



「……なら、時々顔を出してくれればいいじゃないっすか」

『え?』

「名前センパイが、遊びに来てくださいよ」


ばさり、
言葉と共に私の胸に押し付けられた少し控えめな花束。

桜を連想させるピンク色の花が並んでおり、倉間くんを見てみればその頬は花以上にピンク色に染まっていた。



「俺は!………待ってますから」



私から背を向けてFWの本気と言わんばかりの走力を見せつけて走っていく倉間くんは、見える背中がどんどん小さくなっていく。

一連の出来事にぽかんと思わず口を開けたままでいる事しかできない私。
でも倉間くんの言葉と、あの真っ赤な顔が頭から離れない。
少し肌寒い2月の空の下、この出来事を知っているのはこの桜だけ。

手元から香る花の香りに春を感じさせられる。



『"待ってます"か……ん?』



花束の中に小さな紙切れを発見した。
それも、ちゃんと目を凝らしてみないとわからないような花束の奥底の方に。
(よく花傷付けずにここまで押し込めたね)
形状から花屋でよく貰うおまけのギフトカードみたいなものなのだろう。

そう思いつつもなんだろうと、頑張って花を傷付けないようにカードを取り出して、


そして私は、また部活に遊びにいかなきゃいけないなぁと決心するのだ。







"名前センパイが好きです"













一度しか言いませんよ。卒業、おめでとうございます。

(この告白の返事は)
(ちゃんと直接してあげないとね)

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