背伸びした恋だって最初からわかってた。

私なんかが隣にいるのもおこがましい、あの人の周りには常に可愛い女の子が取り巻いていたから。
私は面倒くさい女を作らないための道具でしかないのだろう。
きっと私が一言"別れてください"と言えば"あっそ"と別れてくれる。
そして新しい牽制のための彼女を作るんだと。

でもそれができない私。
この場所にすがりついて、ずっとこのポジションを誰にも譲れないでいる。

サッカーをしている彼を遠目で見つめることしかできない。

彼はそれを望んでいるんだろうから。
隣でベタベタする女が嫌で私を選んだんだろうから。
私はこのままでいい。
例え卑怯でも汚くても惨めだと言われても譲れないの。


「帰るぞ」
『あ、はいっ』


でも悲しいかな嬉しいかな、帰り道は彼と共に帰路を歩く。
練習が終わると出待ちの女の子が多いからそれに捕まらないために。

そうして使われるだけでもいい。
例え抱きしめてくれなくとも、私の心は十分に満たされているから。


「どうした?」
『え?』
「何か最近、元気ねぇみてーだけど」


そう思っているはずなのに、心は心配されて喜んでいる私がいるの。


「それに、この前体育の授業中転んでたろ」

『えぇ!?なんで知ってるんですか?』
「俺のクラスからグランド丸見えなんだよ」

『は、恥ずかしいです……』


見ててくれた。
情けない姿ではあるけど…南沢先輩が、他でもない私のことを。

嬉しい、嬉しい筈ではあるのに素直に喜べない節もあって苦しい。
南沢先輩は飾りではあっても"彼女"というポジションだから私を見ていてくれたのではないか、と思わざるを得ない。
いつも先輩を見ている人の中には学校一の美人と言われている人もいる。
自信なんか元よりないのに、視線はちくちくと痛む。

無言の圧力は刃となって私をじわじわと蝕んでいくのだ。



「何かあったら言えよ」



誰にも見えない心の傷は誰にも見せないまま。
無骨に見えて優しい先輩の手が頭を撫でる。
上辺だけの優しさなのか、本当の優しさなのか。

馬鹿な私にはわからないよ先輩。
私がもしも先輩の気持ちをもっと汲んでいたなら。
私がもっとイイ女だったなら。

私にほんの少しでも勇気があたならこの関係は変わっていたのかな。



『はい』



口先だけの言葉、私は彼の彼女でいるの。





せめて唇に触れる勇気が欲しかった

(でももう私には)
(そんな資格すらもないかもしれないけど)

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