アンリミテットシャイニングの一員である私は男に負けずとも劣らない力を付けている。 女だからと舐められたことも多々あるがその度に私は力でそいつ等をねじ伏せてきた。 今もこれからもそのスタンスは変わらないと思う。 でも、そんな私が唯一追いつけないと1度でも思ってしまった相手がいる。 『白竜、私今日も行ってくるから』 「あぁわかった。規定の時間には戻ってこい」 『了解』 彼に―白竜には圧倒的な力の差を思い知らされた。 だがそこで私は負けを認めない。 まだまだ上があるという事を知れば私は更に上を目指せる。 それを知って私はとある人物に教えを乞うている最中なのだ。 『シュウ!いる?』 「!名前、今日もやるの?」 『勿論!頼んでいい?』 エンシェントダークのキャプテン、シュウ。 シュウは特に決めた時間にチームで練習をしているわけではないということで私の特訓に付き合ってくれている。 生い茂った森を抜け、その間にも山道の中で足腰を鍛えていく。 ここに来るまでも特訓の一環であり私の目論見の一つでもあった。 獣道を難なく先を歩くシュウの様子を見ているとキャプテン格のレベルを思い知らされたりする。 それ以前にシュウはこの森を熟知し過ぎて私からしたら凄い獣道なこの道も彼からしたら既にただの道同然なのだろう。 自然の力ほど自分たちに襲いかかってくるものはない。 シュウはきっとそのことをよく知っているのだと思う。 茂みを抜けた先の大きな滝。 容赦なく川に叩きつけられる滝水、反り立つ崖はまさに自然の驚異そのもの。 「じゃあ始める?」 『オッケー』 とは言ってもシュウは主にアドバイス専門で見ていてくれるだけなんだけど。 履いてきたスパイクを脱いで、ソックスも脱ぎ捨て岩場に整えて置いておく。 滝口を見上げ、岩場に跳ね返り少し自分に降りかかる水を拭う。 目指すはあの滝の先。 『行くぞ…!!』 バシャリと音を立てて滝の岩場を登っていく。 水に晒された岩は滑りやすく、掴みどころのない。 ただでさえ重力に逆らった私の行動に滝という重力に沿った力が加わってまともに前に進ませてはくれず。 『っッ……!』 顔面に叩きつける水に上を見据えることすら難しい。 1つ1つの岩を確実に掴んで行き、足場を確認しながら素早く上を目指す。 足腰の強さを鍛えるには持って来いの特訓、 少しの判断ミスが大きな失態に繋がる。 何度あの川に叩きつけられたことか。 高いところから思いっきり叩きつけられる背中には結構な痛みを伴う。 『(この前は半分まで行った…!今日はせめて7、8割までは…………っ!!!)』 「!名前!!!」 『(しまった…!)』 手元から岩を掴んでいた感覚が抜ける。 気づいたときにはもう遅く私が感じたのは浮遊感のみ。 こうなってしまっては出来ることはできるだけ衝撃を和らげることなのだが空中では正直身動きは取りがたい。 ある程度の痛みを覚悟して目を瞑り、次の瞬間を待った。 『…!!!!』 バッシャーン 大きな音を立てて着水。 だけど思った衝撃は私に襲ってくることはなかった。 「…こんなところで何をしている」 『……は…』 「白竜!」 「シュウ、名前は返してもらうぞ」 「…いいよ。程々にね」 『え?え?』 私が川に落ちる衝撃は白竜に受け止められることで緩和されていた。 変わりに白竜も水浸しになったままで、私も水浸し。 受け止めた衝撃はそんな簡単に受け止められるものではなかっただろうと思うけど白竜はクールな表情のまま私の手を引いていく。 振り返ってみたらシュウが笑顔で手を振っているのが見えた。どういうことなの…? びしゃびしゃのユニフォームを来たまま私と白竜は滝から離れていき、来た森をズカズカ歩いていく。 『ちょっと白竜!私特訓中だったんだけど…?』 「煩い。なぜシュウになんかに頼んだ」 『はい?別に私が誰に教えを乞おうと私の勝手でしょ?』 「気に食わん」 『…は?』 「お前とシュウが一緒にいるのが気に食わん」 水浸しな手で私の手を引き、水浸しな顔を私にまっすぐ向けて。 なんの恥ずかし気もなく言ってのけた白竜に、ポッと思わず顔に熱が集まるのがわかる。 「…?顔が赤い。さっきの特訓で熱でも出したか?」 『ち、違う!』 「早く戻るぞ。それと…これからシュウの所に行くのは許さん」 『な!?なんで!?』 「特訓なら俺がしてやる」 率先して手を引いていってしまった所為で白竜の表情は見えなくなってしまった。 キャプテンに言われてしまった以上シュウの特訓に行くのは不可能だろう。 だけどまさか白竜から申し出があるとは思わなかった。 目指すべき人物から教えを請う。 少し道は変わってしまいそうだけど、それはそれでいいかもしれない、と私は黙って白竜に手を引かれていった。 ずぶ濡れな目標 (だが手は抜かないぞ) (当たり前でしょ。抜いたら怒るから) (フッ…上等だ) _ |