貴方がウソつきだって知っているから。
私はどうしようもなく不安になるの。

囁かれる言葉が、紡がれる愛が、与えられた幸せが、全てが偽りではないのかと。
マサキくんと時を同じく過ごしていくにつれてその思いは増していく。
表と裏。彼の表情は驚く程変わるから。
私はどっちのマサキくんも知っている。
先輩にツンケンするマサキくんも、優しく笑いかけるマサキくんも。
言葉巧みに私はマサキくんに溺れさせられている気がしてならない。
大丈夫なの?あの優しく囁かれた愛の言葉はウソじゃないの?



『マ、マサキくん』
「?どうかした?」

『マサキくんてさ…その』



―私のことちゃんと好き?



心配で吐き出そうとした言葉は私の喉に息苦しく詰まっているような感じがした。
マサキくんは無言の私に首を傾げて続きを待っている。

言ったらマサキくんを怒らせそうで、呆れられそうで少し怖いと思ってるのも事実。
ただでさえ私の一方的な不安定なのに、些細なことでこの関係にヒビが入るのは嫌だから。


「どうした?」
『…マサキ…くんは…』


スカートを握っている手に力が入る。
目の前にいるマサキくんがどうしようもなく愛しくて、でも恐ろしくもあって。


「…名前はさ」
『?』

「俺のこと好き?」

『え…?』
「…名前が俺といて楽しそうじゃないから、さ」


逆に返されてしまった私の問いかけ。
でも私が驚いたのはそこじゃなかった。

マサキくんの表情が凄く悲しそうな目をしていたから。

力の入った私の手を取って、その手にスッとマサキくんの頬が触れる。


「それに…名前が…俺に好きっていってくれたことなかっただろ」
『そ…れは』

「じゃあ質問変える。俺のこと嫌い?」
『き、嫌いじゃない!』


それだけは胸を張って言える。
マサキくんのことは好き。大好き。
でもそれを伝えることで私は一方的な思いを自覚することになるから。


『じゃあ…マサキくん、私のことちゃんと好き?』
「あぁ好きだよ。どうしようもないぐらいに!」


ギュッと引き寄せられて突然の事に私の目の前がマサキくんの学ランでいっぱいになる。
強い力。そして声も腕も震えていたて…いつものマサキくんじゃないみたい。


「表も裏も…ありのままを見てくれる名前が好きだ」


あぁなにを心配することがあったんだろう。
マサキくんはこんなにも私を愛していてくれていたのに。
そして私が今まで一度もマサキくんに好きだと言ったことがないということに今更気付いた。


『…マサキ、くん』


私、恋に対して臆病者だったんだって、今更思ったの。





『私も、マサキくんの事が好きです』




背中に腕を回した瞬間に私の唇は塞がれれることになる。
そんな恋に対して臆病者な2人の話。





恋の臆病者

(ごめんねマサキくん。大好き)
(オレもごめん。愛してる)

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