世間は乙女のときめくバレンタインデー。
でも私はバレンタインだからってワクワクとかドキドキとかをすることはなかった。
だって私はわざわざそんなことにかこつけてでしか思いを伝えられないようなチキンでも臆病者でもない(と思ってる)からだ。
蘭丸はモテるしきっと付き合ってる事も公言してんないから私じゃない女の子からでも貰ってるだろう。

思って友チョコじゃない蘭丸の本命チョコは作ってこなかった。


「あれ、名前…霧野くんにチョコ作ってこなかったの?」
『あー…うん』

「名前勿体なーい!せっかくのチャンスなのに!」


チャンスも何も、既に付き合ってるんだけどね。
なーんて"霧野くんの親衛隊"のいるうちのクラスでは絶対に言わないんだけど。

友達にチョコをあげながら交わした会話に苦笑いを返す。
私にはそんなチャンスいらないから。
願いの叶った今そんな女々しいことをしている方がなんだか馬鹿っぽくなっちゃう。

そんな思いで机に肘を付きながらじっと蘭丸の方を見ていた。
拓人くんと2人で貰ったチョコを机に置いてため息を付いているのが見える。
ほーら、私なんかに貰わなくても美味しい思いしてるでしょ。

悠長に考えていたら急に蘭丸がこちらを向いた。


「苗字!ちょっといいか?」

『…え?』


騒がれるのは面倒だから教室では普通に接していようって言ったの蘭丸なのに珍しい。
言葉に出さないで思ってたら友達に「ちょ!名前チャンス!」「行ってきなって!」と好き勝手なことを言われながら蘭丸と一緒に廊下に出ていく。

すれ違いざま、拓人くんが私達に笑っていた…ような気がする。
そして少し人目を気にして視線のないところへと。



『どうしたのよ蘭丸』
「どうしたって……その、今日バレンタインだろ」

『…うん。で?』



正直まさか蘭丸にこんな形で呼び出されると思ってなかったけど。


「"で?"って…お前まさか」
『うん用意してないけど』

「……ハァ」

『だっていっぱい貰ってるじゃない』
「そうだけど…意味が違うだろ」
『欲しかったの?』
「…名前が作って来ないのはなんとなく予想はしてたが…少しな」


目に見えて肩を落とす蘭丸。
(そういえば名前呼びになってる。2人きりになったからかな)

そんなに私から欲しかったなら催促すればあげたのに。
と思ったけれど男のプライドってやつもあったんだろうと思う。
(まぁ憶測に過ぎないから真意は知らないけど)


「…だからコレ」
『……なにコレ?』
「チョコ」
『…普通女があげるもんじゃない?』
「外国では男がバレンタインにやることだってあるんだよ」


頬を染めて言う蘭丸が押し付けてきた小さな箱。
これをどんな気持ちで買いに行ったのか、考えたら私の頬が緩む。
笑う私が少し気に食わなかったのか蘭丸がムスっとした表情になったのでごめんごめんと謝る。


『じゃあお返しはホワイトデーだからね』
「…わかった」


貰ったチョコを腕に抱き、来月の14日を想像しながら私は蘭丸と笑いあったのだった。




アンバランスバレンタイン

(蘭丸の方が女々しい気がする)
(うるさいっ)

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