きっかけは些細なことだった。

いつも大人しく、教室でよく本を読んでいる苗字。
特に興味もなく、これからも最低限のクラスメートとしての関わり以外余り関わることもない。
そう思っていたけれど、一度苗字と目が合った時。
その瞳にどうしようもなく惹かれた。

それからずっと、本を読んで一喜一憂する苗字の瞳の不思議な魅力に取り付かれて、いつの間にかずっと苗字を目で追い掛けている。

今日もまた窓辺の席で小難しそうな本を読んでいる苗字をそっと見つめる。



「あ」



ひらりと苗字の机から落ちた一枚の栞。
いつも本に挟まれているシンプルなそれは苗字のものだ。
どうやら苗字は気付いていないらしい。

結構な距離の床を滑って落下した栞を拾う。
表裏、ほぼ真っ白なそれは苗字の大人しい性格を表しているようにも思えた。



ちょっとした悪戯心が働いて、俺は栞をポケットに滑らせた。
これを返すのは栞にある細工をしてからになりそうだ。












『あ、霧野くん。この辺で白い栞見なかった?』


やっぱり探していたのだろう。
少し神妙な顔をして俺に聞きに来た苗字に、俺はポケットからある細工を仕掛けた苗字の栞を取り出す。



「これか?」

『あ、それ…!霧野くんが拾ってくれたの?』
「あぁ。昼休みに落ちてるの拾ったんだよ」
『ありがとう霧野くん!』



そこで丁度チャイムが鳴り、席へ着席した。
俺の席は苗字の座る席から一列離れた斜め後ろ。

先生が入ってきて挨拶をして、
本を片付けようと栞を手に取った苗字を視界に入れる。
そして次の瞬間、真っ赤な顔で俺の方を振り返った苗字に俺はニヤリと笑ってやった。







栞に書かれたラブレター

(名前が好きだ)
(霧野蘭丸より)

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