心地よく流れる音に名前は瞳を閉じる。 というより、自然と瞼が下に下がって来ると言ったほうが正しいだろうか。 あまり音楽についての知識はないものの、名前はこういうのを"心を動かす歌"なんだろうと思っていた。 ずっとサッカーばかりやってきた自分にこういうのは無縁だと思っていたのだがそうではないらしいという新たな発見だ。 『相変わらずいい声で歌いますよねー』 「そうでもないさ」 声の主、白雪黎架にそう言った苗字名前。 ここだけの話、仲良く肩を並べている2人はどちらも女である。 それぞれとある理由で男装をしてここに通っていたわけだがその理由を知る者はほぼいないに等しい。 実際に名前も黎架が女だということは知らない。 "ただの大人の男友達"として黎架の隣に座っているわけだが。 「おーい名前!黎架!」 『あ、円堂さん!』 「やっぱり黎架と一緒だったか!わかりやすいな」 「まぁ声ぐらいは聞こえるだろうしね」 自分たちが名前と同い年だった頃、その歌をよく聞いたものだ。 円堂は間違えるはずもない歌声を辿って来たわけだが、やはりそこにはお目当ての人物がいた。 『こんなに上手いんだからその道でも行けそうなのに勿体無い』 「うーん…まぁサッカー選んじゃったから、それはどうしようもないかな」 「俺は大歓迎だったけどな!そうだ名前、天馬が探してたぞ」 『天馬が?』 「行ってきたら?僕はまだしばらくここにいるから」 うーん、と悩んだ名前だったが、結局名前は腰を下ろしていた花壇の淵から立ち上がった。 本当はあまり頻繁に会えない黎架に話を聞きたいところだったがそう上手くはいかないらしい。 ちょっと行ってきます、と走り出そうとした名前の腕をグイっと引いて、黎架は耳元で囁く。 「いってらっしゃい……名前"ちゃん"」 『……え…?』 自分のことをちゃん付けする人物なんて片手で数えられるだけいたら十分なぐらいなのに。 その呼び方を知っているということは、まぁつまりそういうことで。 唖然として足を止めてしまった名前に黎架はにこりと笑顔を向けた。 「名前くん、かっこいいからまた見に来るよ。僕と君は"おんなじ"だから」 その笑顔に思わず赤面した名前だったが、黎架の言った"おんなじ"という意味を理解した時。 名前はニッコリとえ顔を返して走り出した。 その背中に、過去の自分を重ねながら。 「なんだか、懐かしいな」 「だろ?」 さて、と再び息を吸い込み黎架は再び歌い出す。 走れ少年少女。 その夢を掴み取るために。 笑顔で見据える未来と過去 (天馬ー!) (あ、名前ーっ!) _ |